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保育園で子どもたちと過ごしていると、毎日のように「なんで?」という声が響きます。まるで呼吸をするように自然に、そして途切れることなくあふれてくる疑問の連続。
子どもの「なんで?」は、ただの好奇心ではありません。世界を理解しようとする強いエネルギーであり、自分を知り、他者を知り、社会と結びつこうとする健やかな伸びの証です。
一方で、その問いかけに向き合う大人は、時に戸惑い、時に心が揺さぶられます。仕事や家事、園での保育準備など、忙しい日々の中で次々と飛んでくる“予測不能な疑問”。
しかし、ひとつひとつに目を向けてみると、そこには大人自身の学びや気づきが隠れており、子どもと共に成長している自分に気づかされる瞬間があります。
本記事では、保育現場で毎日寄り添ってきた立場から、子どもの「なんで?」が持つ力と、その疑問を受け止める大人が得る学びについて、たっぷりのエピソードとともに紹介します。
子育て中のご家庭でも、きっと「ああ、うちも…」と共感できる場面があるはずです。どうかゆっくりと読み進めていただきながら、自分の子ども時代や、子どもとの関わりを優しく振り返る時間にしていただければ幸いです。
はじめに|「なんで?」に隠れた子どもの力
子どもにとって世界は“まだ白紙で未知”の場所
子どもは毎日、目の前の世界と新たに出会っています。朝の光、風の音、砂の感触。大人にとって“いつもの景色”であっても、子どもにとっては刺激と発見の連続です。「なんで?」の裏側には、こうした繊細で鋭い感覚があります。
たとえば、4歳児のAくんは、ある日「風ってどこから来るの?」と聞いてきました。大人からすれば自然な現象のように感じますが、その瞬間、Aくんにとって風は初めて“意識した存在”になったのです。
そこから風車を作ったり、散歩のときに葉っぱの揺れを見たりと、彼の中に“風への探究”が始まりました。
疑問は学びの始まり――言語・情緒・認知すべての発達が動き出す
子どもが「なんで?」と言うとき、彼らは単に知識を求めているわけではありません。
心の中で「感じたこと」「気づいたこと」「考えたいこと」が同時に動き出し、言葉として外に表れます。 その瞬間こそが“学びの始まり”なのです。
心理学でも、疑問を持つことは主体的な学習の第一歩とされています。理由を知りたいという気持ちは、好奇心→探究意欲→思考力→言語化能力へと発展し、子どもの成長を大きく後押しします。
大人が忘れてしまいがちな「好奇心の感度」を呼び起こす
子どもの「なんで?」は、大人にとっても刺激をもたらします。
保育士として子どもと関わる中で、「そんなふうに見えるんだ」「そこに気づくんだ」と驚かされることが何度もあります。
大人が“当たり前”と感じてしまったことを、子どもは初めてのように丁寧に見つめ直していて、その視点に触れると、こちらまで世界の見え方が変わります。

子どもの「なんで?」が止まらない毎日
日常すべてが“学びの素材”になる保育園
保育園で過ごす一日は、生活リズムに沿って進みながらも、実は驚くほど多くの“学びの瞬間”で構成されています。
朝、登園したばかりの子が「なんで今日は寒いの?」と聞くことがあります。外を歩いた感覚、空の色、風の冷たさなど、五感の情報を総合して疑問が生まれるのです。
室内では玩具の構造、友だちの行動、絵本の内容、音、匂いなど、刺激が尽きません。
子どもの「なんで?」は環境と経験が生み出す自然な流れであり、止めようとして止まるものではありません。
給食時間に飛び出す“小さな科学の芽”
「どうしてスープには湯気が出るの?」 「なんでごはんは白いの?」 「お肉はどうしてやわらかい日と固い日があるの?」
大人が意識していない変化に、子どもはすぐに気づきます。 この「違いを見つける力」が学びの第一歩であり、多くの保育士が「子どもの観察力の鋭さ」には驚かされます。
遊びの中で生まれる疑問は“自分で考えたい”のサイン
ブロックが倒れたときの「なんで?」は、ただの疑問ではなく、自分の力で解決したいという気持ちが強く表れています。
「どうやったら倒れないんだろう?」 「もっと広くしたらいい?」 「高すぎたのかな?」
こうした試行錯誤はまさに幼児期の探究活動。大人が答えをすぐ提示してしまうと、その子が感じた“考える喜び”が途切れてしまいます。
同じ質問を繰り返すのは「不安」ではなく「確認したい」気持ち
「なんで?」を何度も繰り返す子は少なくありません。 その背景には、 ・前に聞いた答えを“整理し直している” ・経験と知識を結びつけたい ・自分の理解が合っているか確かめたい といった気持ちがあります。
同じ質問をくり返すのは、心の中で理解が着実に深まっている証なのです。

「なんで?」に大人が答えに困るときに見える学び
答えにくい質問ほど、子どもの成長の兆しが詰まっている
「どうして人は泣くの?」 「どうして赤ちゃんはしゃべれないの?」 「ケンカは悪いこと?」
抽象的な問いほど、子どもが“心の動き”を理解し始めている証拠です。感情や社会性に関心が向き始めることで、哲学のような質問が増えていきます。
保育士の視点:わからないときは無理に答えない
保育士は、子どもに答えを教える仕事ではなく、子どもの疑問に寄り添い、気持ちを受け止める立場です。
だからこそ、「わからない」と伝えることは決して悪いことではありません。 「一緒に考えてみようか」「どう思う?」という言葉は、子どもの学びを大きく広げます。
影の変化を観察した“ミニ実験”のエピソード
夕方の園庭で、ある子が影の長さに気づいて「なんで?」とつぶやきました。
翌日、昼間にも同じ場所に立ち、影を比べる簡単な観察を行うと、 「ちっちゃい!」「なんでなんで!?」と歓声があがりました。
この“自分の目で確かめた”経験は、ただ答えを聞くよりも何倍も記憶に残ります。

子どもの「なんで?」を親子一緒に調べる楽しさ
家庭での「なんで?」は親子のコミュニケーションの宝物
料理中、買い物中、外出中…家庭でも疑問は無限に生まれます。
忙しい日々の中で立ち止まるのは難しい時もありますが、時間に余裕があるときはぜひ“一緒に調べる時間”を楽しんでください。
身近な素材でできる小さな実験が、子どもの学びを深める
氷、影、音、光、水―― 身近な素材こそ子どもの探究心を刺激します。
例えば「氷はどうして溶けるの?」という質問。 室温と冷蔵庫の外側、温かい部屋の中…場所を変えて実験すると、 「こっちは早い!」とすぐに比較し始めます。
「わかった!」という瞬間の子どもの表情は本当に輝いています。
図鑑や絵本が子どもの「学びの連鎖」を生む
保育園でも、ひとりが図鑑を開くと、その周囲に自然と友だちが集まり、 「何見てるの?」「これ知ってる!」と話題が広がります。 質問が学級全体の活動へ発展することも珍しくありません。

「知らない」を共有できる関係
“知らない”と言える大人は、子どもに安心感を与える
大人が「わからない」と言うことに不安を感じる必要はありません。 むしろ、子どもは「一緒に考えてくれている」という安心を感じます。
完璧を求めず、寄り添いながら共に学ぶ姿勢を
子育ては“正解を教える作業”ではありません。 調べたり、比べたり、考えたりする過程を共有することこそ、 親子の信頼を深める大切な体験です。
難しい内容であれば、専門書や図書館、地域の支援センターなどに頼っても構いません。 大切なのは、子どもの問いを否定せず、「一緒に向き合うよ」という姿勢です。

まとめ|「なんで?」がくれる子育ての宝物
子どもの疑問は、大人にとっても“気づきの種”
「なんで?」の裏側には、子どもの豊かな感性、世界へのまっすぐな眼差し、そして学びたいという強い気持ちが詰まっています。
そしてその問いは、大人の心にも火を灯し、新たな発見や思い出を生み出してくれます。
完璧に答える必要はありません。 むしろ大切なのは、疑問を受け止め、共有し、一緒に歩んでいく姿勢そのものです。
忙しい毎日の中で、ほんの少しだけ“立ち止まる余白”を作り、子どもの世界をのぞいてみてください。
・・・今日も一日ちはるびより
→関連リンク:子どもの発見を大切にする保育の工夫

