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子どもが「できた!」と見せてくれるあの明るい笑顔。その一瞬には、ただの可愛らしさ以上の意味があります。
保育園で子どもたちと過ごしていると、小さな成功体験が心に火を灯し、次の挑戦につながっていく場面に何度も出会います。
幼児期の子どもたちにとって「できた!」の瞬間は、自己肯定感だけでなく、意欲・集中力・社会性など、さまざまな力の源になっています。
本記事では、保育士の視点から“できた体験”が子どもの心をどう育てるのか、家庭でどのようにその瞬間を増やせるのかをていねいに解説します。
なぜ子どもは「できた!」であんなに嬉しそうにするのか
子どもが挑戦を乗り越えて「できた!」と笑顔を見せるその瞬間には、幼児期ならではの学びのプロセスが凝縮されています。
特に3〜6歳の時期は、自分の行動が結果につながる感覚が育つ大切な時期。大人の予想以上に、子どもは日々の小さな挑戦で心を動かしています。
成功体験が心に与える影響
「できた!」という成功体験は、自信を生み出すシンプルで強力な材料です。大人から見ると「これくらい簡単」と思える内容でも、子どもにとっては、手指の発達・理解力・集中力などがフルに使われた大きな挑戦です。そのため、達成できたときには“努力が報われた実感”があり、喜びが全身に表れます。
例えば、積み木を10段積む挑戦では、手先のコントロール、倒れないように観察する注意力、最後まで挑戦しようとする気持ちなど、実は複数の力が同時に使われています。
それを乗り越えた瞬間に生まれる「できた!」は、子どもの内側から自信を押し上げてくれる大切な種となります。

保育現場で見える“表情の変化”
保育士として印象的なのは、挑戦している間の真剣な表情と、成功したときの表情のギャップです。眉間にしわを寄せて取り組んでいた子が、できた瞬間に目を輝かせて笑う。
この変化は、子どもが自分の力を試し、達成できたという確信が生まれた証拠です。
そして、その瞬間を大人に「見て!」と伝えようとするのは、自分が頑張ったことを分かち合いたい気持ちの表れです。
大人が共感し「すごいね」「できたね」と認めることで、子どもは“自分の努力は意味がある”と感じ、自己肯定感の芽がさらに育ちます。
“できた”の瞬間に脳で何が起きている?
子どもが達成感を得たとき、脳ではドーパミンが分泌され、「もっとやりたい」「次も挑戦してみよう」と前向きな気持ちが生まれます。
幼児期は脳の可塑性が高く、こうした成功体験が積み重なるほど「挑戦することが楽しい」というポジティブな回路が育っていきます。
逆に、挑戦のたびに否定されたり、うまくいく前に大人が先回りしすぎると、こうした回路が育ちにくくなることもあります。
もちろん医学的判断が必要なケースでは専門機関に相談することも大切です(→児童相談所全国共通ダイヤル189など)。

「できた!」は自己肯定感の土台になる
自己肯定感は、「自分には価値がある」「自分はやってみればできる」という内側の感覚です。幼児期の「できた!」の積み重ねは、この感覚を育てる直接的な材料となります。
幼児期に必要な“自分はできる”という感覚
この時期の子どもは、世界を理解するために「自分でやってみる」ことを繰り返します。
特に2〜3歳は“自立への第一歩”として重要な期間で、気持ちの波も大きく揺れ動きます。
ここで「できた!」が積み重なると、自信が育ち、気持ちの安定にも繋がります。
失敗との向き合い方にも影響する理由
成功ばかりではなく、失敗も経験することで、子どもは「挑戦にはうまくいかないこともある」と学びます。
大切なのはそのときの大人の関わり方です。 「失敗しても大丈夫」 と感じられれば、子どもは失敗を恐れず挑戦を続けることができます。
年齢別に見る成功体験の広がり
年齢が上がるにつれて、挑戦の難易度や“できた”の種類も増えていきます。
5歳頃になると、協力・役割分担といった“社会的成功”が増えるのが特徴です。
友だちと協力してひとつの目的を達成できたときの喜びは格別で、自己肯定感だけでなく、他者肯定感も育ちます。

保育園で見られた「できた!」のリアルエピソード
保育現場には、毎日のように“できた瞬間”が溢れています。ここでは、どの園でも見られる代表的なエピソードを紹介します。
着替え・食事・制作…日常にある小さな成功
たとえば、ボタンのとめ外しが苦手だった子が、ある日ふと“ひとりで全部できた”瞬間があります。
食事でも、苦手な野菜を自分からひとくち食べられた日や、スプーンを持つ手の動きが上手くなった日など、小さな成長が積み重なります。
制作活動では、はさみが急にスムーズに進むようになる瞬間や、のりの量を調整できるようになる日があります。大人からすると何気ない発達でも、子どもにとっては「昨日の自分を超えた成長」です。
友だちとの関わりで生まれる“できた”
協力してブロックを作る、順番を守る、友だちの気持ちに気づく…。
これらも立派な成功体験です。社会性は“人との関わりの中でしか育たない力”であり、保育園はその絶好の場所です。
子ども自身が成長を実感する瞬間
保育園では「昨日できなかったことが今日できるようになる」という成長が頻繁に起こります。
当の子ども自身がその変化に気づき、「できたよ!見て!」と誇らしげにアピールする姿は本当に輝いています。大人の共感の一言は、さらに大きな成長の背中を押します。

家庭でできる“できた”を育てる声かけ&関わり方
結果より過程を認める褒め方のポイント
「できたね!」はとても大切な言葉ですが、そこに“過程の言語化”が加わると、子どもの挑戦する力が格段に育ちます。
「がんばってたね」 「工夫してたね」 「最後まであきらめなかったね」 努力に光が当たると、子どもは挑戦すること自体に価値を感じ始めます。
やりすぎないサポートのコツ
大人が先回りして手伝いすぎると、子どもが挑戦する機会を奪ってしまうことがあります。
時間に余裕のあるときは、あえて手を出さず“見守り”に徹することを意識してみてください。
子どもが試行錯誤する姿は、まさに成長の真っ只中です。
「失敗を責めない環境」をつくる方法
家庭でこぼした、破れた、倒れた…。子どもには「日々の失敗」はつきものです。
そのときに 「どうしようね?」 「一緒に片付けようか」 と声をかけることで、子どもは失敗への安心感を持ち、挑戦し続けられる心の強さを育てます。

“できた体験”を増やすための環境づくり
子どもが挑戦しやすい家庭環境とは
部屋の中に“子どもの手が届く配置”を作ることは、とても効果的です。自分で道具を取れることで「やってみたい」が自然と湧き起こります。
また、完成を求めすぎない環境も重要です。時間がかかっても、途中でやめてもOKという雰囲気は、挑戦のハードルを大きく下げてくれます。
保育園と家庭が連携するメリット
保育士に家庭での様子を伝えたり、園での姿を共有してもらうことで、子どもは一貫したサポートの中で挑戦しやすくなります。
「保育園で頑張っていることを家でも試してみる」など、連携のメリットはとても大きいです。
専門機関に相談すべきサイン
挑戦に対する強い不安が続く場合や、激しい自己否定が続く場合には、専門機関に相談するのも大切です。
→参考:子育て支援センター/自治体の発達相談窓口 早めの相談は、子どもと家庭にとってより良い環境づくりにつながります。

まとめ|「できた!」を一緒に喜ぶことが自己肯定感を育てる
子どもの「できた!」は、小さな成功を通して心の根っこを育てる大切な瞬間です。
大人ができるのは、その頑張りを受け止め、挑戦する姿勢を尊重し、一緒に喜ぶこと。
日常の一つひとつの成功を大切にしながら、子どもが自分自身を好きになれる土台を一緒に育てていきたいですね。
・・・今日も一日ちはるびより
