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秋の風が少し冷たくなり、園庭の木々が色づき始めるころ。
子どもたちは「はっぱの色がかわった!」「どんぐり見つけたよ!」と、季節の変化をいち早く見つけます。
そんな季節に行われる秋の遠足は、子どもの「なんだろう?」という気づきを自然に引き出し、心の奥にある探究心を大きく育てる時間です。
遠足は“お楽しみ”だけでなく、保育士にとっても子どもの発達や興味を観察できる貴重な機会です。
この記事では、保育士視点から秋の遠足を通して育まれる探究心のプロセスと、その支援のあり方を丁寧に解説します。
秋の自然が育てる「探究心の芽」
秋は、子どもの五感を刺激する要素にあふれています。
色づいた木々、カサカサと鳴る落ち葉、どんぐりの手触り、空の高さや風の匂い。
自然のすべてが子どもの“知りたい”を呼び起こします。
たとえば、遠足先で落ち葉を拾っていた子が「これ赤い!」「こっちは黄色だ!」と友だちに見せる場面。
その姿に気づいた保育士が「どうして色が違うのかな?」と声をかけると、子どもたちはしばらく考え込み、顔を上げて「木が違うからかな」「寒くなったから?」と答えます。
まさに自分で考え、推測する力が働いている瞬間です。
探究心の芽は、こうした「小さな疑問」から生まれます。大人が先回りして答えを与えず、子どもが自ら確かめる時間を持てるよう見守ることが、保育士の大切な役割です。

五感を使って世界を感じる「歩く学び」
目的地に着くまでの“道中”こそ、遠足の最大の学びの場です。
歩きながら、風を感じ、土の匂いを嗅ぎ、鳥の声や落ち葉の音を聴く。こうした五感の刺激は、子どもの脳と感性を育てる栄養になります。
園によっては、保育士が意図的に「聞こえる音を探そう」「見える秋を見つけよう」と声をかけながら歩くこともあります。
子どもたちは「カサカサって葉っぱの音!」「バスがゴーって言ってる!」と次々に発見を言葉にしていきます。
この“言葉にする”行為は、感覚的な体験を思考に変える第一歩であり、言語発達と探究心の接点でもあります。
歩くリズムの中で自然に対話が生まれ、友だちと意見を交わすうちに、「同じものを見ても人によって感じ方が違う」ことに気づく子も。
これは、他者の視点を意識するという重要な社会的学びにつながっています。

保育士が支える「気づきを深める関わり方」
子どもの探究心は、「発見→考える→確かめる→共有する」というプロセスを経て育ちます。
保育士はその流れを自然に引き出す“伴走者”として、子どもの思考を支えます。
たとえば、「これ見て!」と見せてきたドングリを、ただ「きれいだね」と返すのではなく、
「どんな音がするかな?」「同じ形のもの、見つけられる?」と問いを重ねることで、観察の視点が立体的になります。
また、保育士自身が驚きや感動を表現することも大切です。
「わあ、すごいね!」「先生も知らなかった!」と共に喜ぶ姿は、子どもの「もっと見せたい」「もっと調べたい」という意欲を高めます。
保育士の関わりには“意図”がありながらも、押しつけがない柔らかさが求められます。
探究心は「安心感のある環境」でこそ花開くからです。

「安全と自由」を両立する環境づくり
自然の中での活動にはリスクも伴いますが、その中でこそ学べることがあります。
たとえば、小石につまずいたり、枝が落ちていたり──そんな不確定要素が、子どもに「気をつける力」や「判断する力」を育てます。
保育士は、完全にリスクを排除するのではなく、安全を確保しながら自由を保障することを意識します。
そのためには事前準備が欠かせません。遠足ルートの下見、安全ポイントの確認、緊急時の連携方法など、職員間での共有を丁寧に行います。
また、服装や靴の選び方、持ち物のチェックリストを家庭に伝えるなど、保護者との協力も重要です。
こうした支えがあることで、子どもはのびのびと探究に集中できます。

振り返りの時間が「学び」を定着させる
遠足から帰ったあとの「振り返り」は、探究のサイクルを完成させる大切な時間です。
保育士が「どんなことを見つけた?」「どんな音がした?」と一人ひとりに問いかけることで、子どもは記憶を呼び起こし、自分の体験を再構築します。
実際の園では、拾ってきた落ち葉を並べて観察したり、ドングリを使って工作をしたりと、五感の記憶を形に残す活動が多く見られます。
このプロセスで、子どもは“自分の体験を表現する喜び”を味わい、探究心が次の興味へと発展します。
また、保育士がその日の出来事を記録し、職員間で共有することも大切です。
「誰が何に興味を持っていたのか」「どんな対話が生まれたのか」を整理しておくと、今後の保育計画にも活かすことができます。

家庭と園がつながる「学びの循環」
保育園での体験が家庭へ、家庭での気づきがまた園へ──この循環が生まれると、子どもの学びは格段に深まります。
遠足のあと、家庭で「何を見つけたの?」「どんな音がしたの?」と話を聞くだけで、子どもは嬉しそうに思い出を語ります。
ある園では、保護者に「おうちで話してくれたこと」を連絡帳に書いてもらう取り組みを行っています。
保育士はその記録を読んで、翌日の活動で「おうちでも話してくれたんだね」と言葉を返します。
こうしたやり取りは、子どもにとって自分の経験が認められた安心感につながります。
また、家庭でも簡単にできる「自然探しあそび」や「落ち葉の色比べ」などを提案すると、園での探究が日常生活に広がっていきます。
家庭と園が同じ視点で子どもの興味を支えることが、学びの持続に欠かせません。

探究心と発達の関係
探究心の芽生えは、心理学的にも非常に重要な発達のサインです。
3~6歳の子どもは、感覚運動期から前操作期へと移行し、「自分で確かめたい」意欲が強くなります。
この時期に体験を通して得た学びは、記憶や思考の基礎を形づくるといわれています。
また、探究の過程で「うまくいかなかった」「違っていた」という経験をすることも大切です。
失敗を通して子どもは、「次はどうしよう」と考え直す力を育てます。保育士はそのプロセスを否定せず、「やってみたね」「次はどうする?」と励ましながら、挑戦を支えます。
この繰り返しが、やがて粘り強さや問題解決力へとつながり、将来の学びの土台になります。
心の育ちと仲間とのつながり
遠足では、探究心だけでなく“心の成長”も育まれます。
友だちと見つけたものを見せ合い、助け合いながら歩く中で、子どもたちは自然と思いやりや協調性を学びます。
坂道を登るときに「大丈夫?手つなごう」と声をかける姿。見つけたどんぐりを分け合う優しさ。
そうした小さな行動の積み重ねが、社会性や感情の成熟を育てています。
自然の中では、子ども同士の関係がとても素直に表れます。
保育士が観察することで、クラスの人間関係や個々の成長の様子を深く理解する手がかりにもなります。

保育士のまなざしが未来を育てる
子どもの探究心を育てるには、保育士自身が“学び続ける姿”を見せることも大切です。
「先生も知らないな、一緒に調べてみようか」と言える保育士の姿は、子どもに「大人も学んでいいんだ」という安心を与えます。
保育は「教える」仕事ではなく、「共に発見する」仕事。
保育士が柔らかな心で自然や子どもに向き合うと、その姿勢がそのまま子どもの心に映ります。
子どもの興味の火を消さず、やさしく風を送る──それが探究を支える保育士の役割です。

まとめ
秋の遠足は、子どもの探究心・感性・社会性・思考力を総合的に育てる学びの機会です。
保育士は子どもの発見を受け止め、家庭はその興味を引き継ぎ、互いに支え合うことで、学びは「園の外」にまで広がっていきます。
自然の中で感じた小さな“なぜ?”が、未来の学びへの入り口。
秋の光の中で、子どもたちの瞳が輝く瞬間を大切に見守っていきましょう。
・・・今日も一日ちはるびより
関連リンク:
・秋の製作あそびで育つ表現力
・園外保育での安全対策と保育士の役割
・季節の自然を使った遊びアイデア
 
					

