保育園での給食は、単にお腹を満たす時間ではありません。そこには「食べることを通じて育つ力」「人と関わる力」「感謝する心」など、たくさんの学びが詰まっています。
毎日の給食の時間を通して、子どもたちは自然と自立の芽を育て、心と体を大きく成長させていきます。
スプーンを持つ小さな手、真剣なまなざしで配膳を手伝う姿、苦手な野菜を一口がんばる表情…。そんな一つひとつの瞬間が、保育士にとって何よりうれしい成長の証です。
本記事では、保育園での給食を中心に「食育」と「自立心」がどのように育まれていくのかを、現場の保育士の目線から丁寧に見つめていきます。
給食の時間が「学びの時間」になる理由
保育園の給食は、栄養を摂るだけではなく、子どもたちが生活や社会の基礎を学ぶ「教育の一環」として位置づけられています。
献立には、季節の食材や郷土料理、行事食などが計画的に取り入れられ、食を通して文化や自然とのつながりを感じられるように工夫されています。
たとえば、春には「たけのこご飯」、夏には「冷やしうどん」、秋には「さつまいものみそ汁」、冬には「七草がゆ」など。季節の行事と結びつけることで、子どもたちは自然の恵みとその移ろいを五感で感じ取ります。
調理室から届くおいしそうな香りに、「今日はなにかな?」「いいにおい!」と声を弾ませる子どもたち。こうした日常の中の小さな感動こそが、食に対する興味の第一歩です。
調理員さんとの関わりも“食育”の一部
保育園では、給食を作ってくれる調理員さんとの関わりも大切にしています。
「今日のスープ、おいしかったよ!」「このにんじん、甘いね!」と声をかける子どもたちに、調理員さんが「ありがとう」と笑顔で返してくれる——。その温かなやり取りが、食材への感謝や「人の手で食事ができている」ことを実感させます。
保育士も時には、調理の様子を子どもたちと一緒に見学しながら、「野菜はこうやって切るんだね」「ぐつぐつ煮ると色が変わるね」と話しかけます。
こうした体験は、食を「知る」「感じる」「関わる」学びへとつながっていきます。
「食べる」だけでなく「関わる」ことの大切さ
保育園の給食の時間では、子どもたちがそれぞれの役割を持って準備や片付けを行います。
3歳児クラスでは、お皿を並べたり、おしぼりを配ったり。年長クラスになると、「今日はAグループが配膳係ね」と当番を決めて、友だちに「どうぞ」と配る姿も見られます。
こうした活動は、単なるお手伝いではなく、「自分がクラスの一員として大切な役割を果たしている」という自信を育みます。
保育士が「ありがとう」「助かったよ」と声をかけることで、子どもは自分の存在が誰かの役に立つ喜びを感じます。
また、配膳のときにお皿をこぼしてしまうこともあります。でも、保育士が「どうしたらこぼれにくいかな?」と一緒に考えることで、失敗を責めるのではなく学びに変える姿勢を自然と身につけていきます。
このような日々の積み重ねが、子どもの自立と責任感の芽を育てていくのです。
苦手な食材も「挑戦する気持ち」を支える
子どもにとって苦手な食べ物は誰にでもあります。しかし、保育園の食育では「全部食べなきゃだめ」と叱るのではなく、「まず一口だけ挑戦してみようね」と、あくまで温かく励ます姿勢を大切にしています。
ある園児は、ずっとピーマンが苦手でした。ある日、保育士が「今日はちょっと甘い味つけだよ」と伝えると、彼は勇気を出して小さな一口を食べてみました。すると、「あれ? ちょっと食べられたかも!」と嬉しそうな笑顔。周りの友だちからも「がんばったね!」と拍手が起こりました。
このような体験が、子どもたちに“挑戦する気持ち”を育て、食だけでなく日常のさまざまな場面での自信につながっていきます。
保育士は、一人ひとりの食のペースに寄り添いながら、無理をせず、できた喜びを大切にします。食べるという行為の背景には、「心の育ち」や「安心感」が深く関わっていることを忘れずに、ゆっくりと見守ることが大切です。
仲間と食べる楽しさが心を育てる
給食の時間は、子どもたちがもっともリラックスし、自然体で過ごせる時間でもあります。
「これ、おかわりある?」「スープがあったかいね」「○○ちゃんも食べてる!」——そんな会話があちこちで飛び交い、笑顔が広がります。
同じテーブルを囲む中で、子どもたちは「待つ」「譲る」「分ける」などの社会的ルールを自然に学びます。年長児が年下の子に「スプーンはこう持つと食べやすいよ」と教えてあげる姿は、まさに“思いやりの芽”そのもの。
給食の場は、食事のマナーを超え、人と関わる力を育てる貴重な時間なのです。
保育士にとっても、子どもたちと同じ目線で食卓を囲むことは大切な関わりのひとつ。「先生も一緒に食べるとおいしいね」という声に、食事を通じた信頼関係の深まりを感じます。
行事食・季節の給食がもたらす特別な学び
節分の「いわしのつみれ汁」や、ひなまつりの「ちらしずし」など、行事食も子どもたちに人気です。行事の意味を知りながら食べることで、「食」が文化や伝統と結びついていることを感じられます。
「ひなまつりって、女の子のお祝いなんだよ」「鬼が来ないようにお豆を食べるんだね」と、食卓で自然に会話が広がる時間は、まさに“生きた学び”です。
行事食はまた、家庭と園をつなぐ架け橋にもなります。保護者が「家でも同じメニューを作ってみました」と話してくださることもあり、家庭での食育が園と連携して続いていく様子に、保育士としてのやりがいを感じます。
家庭でもできる「食育」のヒント
家庭での食育は、特別なことをする必要はありません。
「一緒に食材を洗う」「盛り付けをお願いする」「お箸をそろえる」など、日常の小さな関わりが食育そのものです。
子どもが料理の過程を知ることで、食べることへの興味が自然と高まります。
「今日の給食、こんなの食べたよ」「今度おうちでも作ってみたいな」といった話題が家庭の食卓に出ることもあります。園と家庭の食のつながりが、子どもの心に豊かな循環を生み出します。
もし偏食や食への不安が強い場合は、まずかかりつけの小児科医に相談しましょう。専門の相談先としては、地域の保健センター、児童相談所、発達支援センターなどがあります。
「食べられるようになること」だけを目標にせず、食を通じて「安心して挑戦できる環境をつくること」が何より大切です。
保育園の給食には、子どもたちの「生きる力」を育てる多くの学びが隠れています。
食べる喜び、作ってくれる人への感謝、苦手に挑戦する勇気、そして友だちと分かち合う思いやり——。そのすべてが、子どもたちの未来につながる大切な経験です。
私たち保育士は、日々の給食時間を“食べる学びの時間”として大切にしながら、家庭とも手を取り合い、子どもたち一人ひとりが安心して「おいしいね」と言える時間を守っていきたいと思います。
今日の食卓にも、きっとたくさんの笑顔と成長が広がっていることでしょう。
・・・今日も一日ちはるびより
関連リンク:
・「園での食育活動を家庭につなげる工夫」
・「子どもの『できた!』を支える保育士の声かけ」