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「下の子が生まれて甘えが強くなった」「急に涙もろくなり、前より抱っこを求めるようになった」「トイレや身支度がうまくいかない日が増えた」──幼児期に多くの家庭で見られる“赤ちゃん返り”。
保育園でも、年度初め・長期休暇明け・きょうだい誕生など、毎年さまざまな場面で見受けられます。
保育士として多くの子どもたちを見守ってきた経験から強く感じるのは、赤ちゃん返りは「困った行動」ではなく、子どもが環境変化に合わせて安心を取り戻そうとする自然なプロセスだということ。
この記事では、子どもの気持ちを丁寧に読み取りながら、多くの実例とともに「なぜ赤ちゃん返りが起きるのか」「どう関わると安心につながるのか」を、保育士の視点で深く解説します。
赤ちゃん返りとは?背景にある“安心したい”という切実な気持ち
赤ちゃん返りとは、幼児が不安や環境の変化に直面したとき、一時的に乳児期のような行動を見せる姿を指します。抱っこや甘え、涙、できていたことの後戻りなどが典型的です。
大人から見ると「戻ってしまった」「前よりできなくなった」と感じられますが、発達の観点から見ると、これは後退ではありません。
子どもは「安心を補充して、再び前に進むための助走期間」として赤ちゃん返りを経験します。
気持ちを整えるために“愛情の再確認”が必要な時期があり、赤ちゃん返りはその自然な表現なのです。

赤ちゃん返りが起こりやすいタイミング
- きょうだい誕生で家族の注目が分散したと感じる時期
- 進級・クラス替え・担任変更など環境が大きく変わる時
- 引っ越し・生活リズムの変化・保護者の仕事変化
- 行事期や長期休暇明けなど、刺激が連続する時期
幼児は大人が思う以上に周囲の変化を敏感に感じ取ります。「いつもと違う」「安心できるはずの場所が変わってしまった」という揺らぎが生じると、気持ちの安定を取り戻すために甘えや後戻りが強く出ることがあります。
保育園で見られる「赤ちゃん返り」実例(さらに拡大版)
保育現場では、赤ちゃん返りの姿は本当に多様です。子どもの性格や家庭の状況によって表れ方が異なり、「これも赤ちゃん返りだったんだ」と後でわかる事例も少なくありません。ここでは、豊富な事例を挙げながら特徴を解説します。
【事例1】4歳児Aくん:進級後の“抱っこブーム”再来
新しいクラス・新しい先生に慣れるまで、Aくんは毎朝「抱っこして」「先生の隣がいい」と体を預けてきました。普段は活発で友だちの輪にすぐ入れるタイプですが、見えない不安が大きかったのでしょう。
保育士が「ぎゅっとしてから行こうか」と短いスキンシップを日課にすると、数日で朝の涙が減り、2週間後には環境にもすっかり慣れていきました。
【事例2】3歳児Bちゃん:弟が生まれて涙が増えた
家庭では「お姉さんだから頑張らなきゃ」と言われることが増え、園で気を張っていたBちゃん。弟の誕生後、トイレの失敗が増えたり、給食で「先生食べさせて」と頼む日が多くなりました。
保育士と保護者で声かけを共有し、「甘えても大丈夫」「お姉さんでも甘えていいんだよ」と伝え続けたところ、1カ月ほどで落ち着き、以前の明るい笑顔が戻ってきました。

【事例3】2歳児Cくん:言葉より涙が先に出てしまう時期
引っ越し後、慣れない生活で気持ちが不安定になったCくん。普段は言葉が多いのに、少しの刺激で涙が出てしまう日が続きました。
園では、表情カードやシンプルな気持ちボードを使い、言葉以外の方法で気持ちを伝えられるようにすると、自然と落ち着き始め、1カ月後には元気いっぱいの姿が増えました。
【事例4】5歳児Dちゃん:卒園前の甘えが増えた理由
卒園を控えた5歳児は、期待と不安が入り混じり「先生と過ごす時間が終わってしまう」という寂しさを抱えることも。Dちゃんは「一緒にやってほしい」「見てて」と甘えることが増え、普段よりゆっくりペースに。
保育士は「やってほしい気持ちだね」と丁寧に受け止め、必要なところだけサポート。卒園が近づくほど落ちついていく姿が見られました。
【事例5】5歳児Eくん:行事後に“気が抜ける”ように甘える
運動会や発表会の後に見られる典型的なパターン。Eくんは行事後、「先生のそばにいたい」と離れにくい日が続きました。大きな達成感の後、緊張がほどけた反動が出た様子でした。
行事後のケアとして、園では“ゆるやかな数日”を作り、自由遊びを増やしたところ、心のエネルギーが戻り、以前の姿に戻っていきました。
【事例6】3歳児Fくん:長期休暇明けの「ママがいい」連呼
夏休み明けによく見られるケース。休み中は家庭時間が多かったため、園に来ると「ママがいい」「帰る」と涙が止まらないこともしばしば。
慣らし保育のように短時間から増やしていくと、1週間ほどで安心が戻りました。
家庭でできる赤ちゃん返りサポート(さらに深いアプローチ)
1. 「甘えていいよ」と安心のメッセージを渡す
赤ちゃん返りの時期、子どもは“大好きな人に受け止めてもらえるか”を確かめています。「甘えたい気持ちなんだね」「ぎゅっとしたい気分かな?」と気持ちを代弁してあげるだけでも安心につながります。
保育園でも、甘えを受け止めた翌日は驚くほど落ち着くことが珍しくありません。
2. 忙しい日ほど“短く・こまめに”スキンシップ
スキンシップは長時間でなくて構いません。
・10秒ハグ
・手をつないで歩く数メートル
・頭をぽんと撫でる
・「大好きだよ」の一言
これだけでも安心は大きく回復します。短時間の積み重ねが効果的です。
3. 上の子と“1対1時間”を意識する(数分でOK)
弟、妹が生まれた直後は、上の子は注目を奪われたように感じやすく、「特別な時間」が大きな安心になります。
ほんの数分でも、「あなたとだけ過ごす時間だよ」と伝えることで満たされ方が違います。
【事例】4歳児Gくんは、寝る前の3分絵本で劇的に安定しました。

4. “できていないところ”より“できているところ”を丁寧に拾う
「またできなくなった」より先に、「今日はここまでできたね」「泣いたけど来られたね」と、小さな成功を喜ぶことが大切です。
赤ちゃん返りの時期、子どもの心はとてもデリケート。肯定の言葉は自信を回復させる力があります。
5. 無理に“元に戻そう”としなくていい
赤ちゃん返りは自然に終わるもので、急いで「元の姿に戻さなきゃ」と思う必要はありません。焦りは子どもの不安を高め、逆に長引く原因にもなります。
困り感が大きい時は、子育て支援センターや保健センターに相談すると、親の安心にもつながります。
赤ちゃん返りはどれくらい続く?安心が戻るまでのプロセス
保育園の経験では、赤ちゃん返りは数週間〜数カ月で落ち着くことが多いです。
大切なのは、子どもの気持ちが安定するまで「安心できる大人がそばにいる」という状態を保つこと。
赤ちゃん返りは、次の成長に向かうための心の準備期間でもあります。
まとめ
赤ちゃん返りは、幼児期の子どもが安心を求めるごく自然なサインであり、決して「困った行動」ではありません。
保育士として感じるのは、赤ちゃん返りを経験した子ほど、その後の成長が豊かで、気持ちを整える力が大きく育つということ。
家庭と園が気持ちを共有し合いながら、揺れる心に寄り添うことで、「自分は大切にされている」という揺るぎない感覚が育ち、次のステップへと力強く進んでいきます。
・・・今日も一日ちはるびより
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