保育士が教える“子どもの自立”の育て方|家庭で今日からできる関わり方

保育園の玄関で、子どもが自分の靴を履こうとし、近くで保育士が見守っている光景。朝の自然光の中、子どもが自立に向けて頑張る姿をやさしく捉えた写真。

「自分でやりたい」「でもうまくできなくて泣いてしまう」――保育園では、そんな子どもたちの日常がいつも広がっています。

保育士として多くの子どもと関わる中で気づくのは、自立は突然できるようになるものではなく、積み重ねと安心感の中で育つものだということです。

本記事では、保育士視点で“家庭でできる自立の育て方”を年齢ごとの特徴・環境づくり・声かけ例・実際のエピソードとともに解説します。

子どもの「自立」とは?保育士が考える3つの視点

自立という言葉は大人がイメージする範囲が大きく、「身のまわりのことができる」という側面だけに注目されがちです。しかし保育の現場で感じるのは“自分で選び、気持ちを伝え、できる範囲で行動する力”が主軸ということ。以下の3つの視点を土台に考えると、家庭でも育てやすくなります。

① 自分でやってみようとする「意欲」

まだうまくできなくても、挑戦しようとする気持ちが自立の第一歩です。「やりたい」と思えた瞬間の火種を消さない関わり方が大切です。

園では、できそうな部分だけ子どもに任せ、難しいところは少しお手伝いする“部分的自立”を心がけています。

子どもが自分で身支度に挑戦し、保育士が距離を置いて見守っている状況を示す写真。

② 「できた!」を積み上げる成功体験

失敗の先に成功がありますが、成功体験が増えると子どもの表情はぐっと明るくなります。保育園では、大人が急いで“代わりにやってしまう”ことを避け、必ず一度は子ども自身にやってみてもらいます。

家庭でも、ほんの小さな「できた」を言葉にして返すことが大きな励みになります。

③ 気持ちが安定して挑戦できる「安心感」

自立には安心できる大人の存在が欠かせません。大人に甘えることができるからこそ、「自分でやってみよう」と一歩を踏み出せます。泣く・甘えるは自立の反対ではなく、むしろ必要なプロセスです。

年齢別:家庭でできる自立サポートのコツ

保育園での経験をもとに、0~5歳の発達段階に合った自立の育て方をまとめました。

【0~1歳】まずは「安心」がすべての基盤

0~1歳は、自立というより“自立の土台づくり”の時期。抱っこされる、名前を呼ばれる、欲求に応えてもらう、その積み重ねが「自分は大切にされている」という感覚につながります。

  • 抱っこと目線合わせをたくさんする
  • できたことより「やりたい気持ち」を受け止める
  • 簡単な選択肢(りんごにする?バナナにする?)を用意

この時期は、大人の関わりが自立の芽を静かに育てている段階です。

室内で保育士が赤ちゃんと目を合わせ、優しく微笑んでいる様子を写した画像。

【1~2歳】「自分で!」が増えてくる時期

イヤイヤ期に重なることもあり、家庭では大変に感じることも多い時期です。しかしこの「自分で!」の主張こそ、自立の伸びるサインです。保育園では以下のような関わりを大切にしています。

  • 選べる環境(靴を置く位置、お皿の色など)をつくる
  • 時間に余裕があるときは“見守る”を優先
  • うまくいかない時は「手伝って?」と言えるよう促す

保育士として心がけているのは、できないことを責めず、できた部分に注目すること

家庭でも「ここまで自分でできたね」と部分的な成功を言葉にすると、ぐっと意欲が高まります。

【3~4歳】生活習慣の自立が育つ時期

着替え・食事・排泄など、日常生活の多くを自分の力で進められるようになってきます。園では“流れ”を子ども自身がつかむよう環境を整えています。

例)朝の支度
①かばんを置く → ②上着を脱ぐ → ③タオルをかける この順番を視覚的に分かるようイラストで提示したり、声かけで一緒に確認します。

家庭でも、生活動線を子ども仕様に整えることで自立しやすくなります。

  • 手の届く高さに衣類・タオルを用意
  • 朝の支度は「順番」を固定してルーティンに
  • 時間を区切らず「できるペース」を尊重する

子どもが自分で身支度に挑戦し、保育士が距離を置いて見守っている状況を示す写真。

【5歳〜】考えて行動する力を育てる時期

年長になると、友だちとの関わりやルールの理解が深まり、判断力・計画力が少しずつ育ちます。「できることが増える喜び」と同時に、「もう少し見守ってほしい」という揺れもある時期です。

  • 「どうしたい?」と自分で考える時間を渡す
  • 失敗の後は原因よりも“次どうする?”を一緒に考える
  • 役割を持つ(テーブル拭き、洗濯物を畳むなど)

年長児がテーブル拭きなどの簡単な仕事をしている姿を写した写真。

保育園でよくある“自立のつまずき”と家庭での関わり方

1. ひとりでやりたいけど、できないと泣く

よく見られる姿で、発達上とても自然です。大人が先回りして手伝いすぎると、かえって自立の芽を摘むことに。おすすめは「途中まで一緒にやる」「最後は子どもが仕上げる」という関わり方。

声かけ例:
「ここまでは一緒にやろうか。最後のぎゅっとするところは○○ちゃんがやってみる?」

2. 甘えが強くなった気がする

家庭で甘えが強く出るのは、園で頑張っている証拠です。甘えは後退ではなく、成長の助走。しっかり甘えられた後は、また自分でやろうとする力が戻ってきます。

声かけ例:
「いっぱい頑張ってきたんだね。少し抱っこして落ち着こうか。」

3. 「やりたくない」が続く

疲れや生活リズムの乱れが影響している場合も多いです。無理にやらせるより、選択肢を渡して自分で決められる環境を整えることが効果的です。

例:
「先にズボンからにする?それともシャツからにする?」

保育士の現場から:実際のエピソード

■ 靴が履けずに泣いていた3歳児のAちゃん

毎朝くつ箱の前で泣いていたAちゃん。大人が手伝うとすぐに履けるけれど、自分でやりたい気持ちが強かったのです。保育士が「かかとのところだけ手伝うね」「最後のぎゅっとはAちゃんがやってみて」と部分的に役割分担したところ、数週間後にはひとりで履けるように。

家庭でも同じ方法を取り入れてくださり、「自分でできた!」がどんどん増えていきました。

■ 5歳児・Bくんの“失敗した後の一言”

お当番の仕事で水こぼしをしたBくん。慌てていましたが、保育士が「どうしようか?」と落ち着いて聞くと、「ふく!」と自分で答え、雑巾を取りに行きました。

失敗の瞬間は、責めるよりも「考える力を育てるチャンス」。その後の行動が自立につながります。

家庭で今日からできる“自立を育てる声かけ”10選

  • 「やってみたい気持ち、すごく大事だよ」
  • 「ここまで自分でできたね」
  • 「困ったら“手伝って”って言っていいよ」
  • 「どうしたいと思ってる?」
  • 「一緒にやるところと、○○ちゃんがやるところを決めようか」
  • 「ゆっくりで大丈夫」
  • 「できた時の顔、今とってもいいね」
  • 「失敗してもまたやり直せるよ」
  • 「選んでいいよ。どっちにする?」
  • 「今日はここまで頑張ったね」

まとめ|自立は“できること”よりも“見守られた経験”で育つ

子どもの自立は、できる・できないの結果ではなく、そこに向かうプロセスそのものが大切です。

保育園でも家庭でも、子どもの意欲が芽生えた瞬間を大切にし、できる部分を見つけて認めることで、自立の力はぐっと育っていきます。

今日からできるのは、「待つ」「任せる」「認める」の3つ。
小さな積み重ねが、子どもの未来の大きな力につながるはずです。

・・・今日も一日ちはるびより

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