3歳までの癇癪がつらい…保育士が見た“困った行動”への寄り添い方と家庭でできる対処法

保育室で癇癪を起こして泣く幼児を、保育士が少し距離を置いて見守っている場面。自然光が差し込み、落ち着くまでそっと寄り添う様子が伝わる構図。

1〜3歳ごろにピークを迎える癇癪は、育児の中でも特に大人の心と体のエネルギーを消耗させるものです。大きな声で泣き叫ぶ、地面にひっくり返る、物を投げる、時には走り回って手がつけられない…。

こうした姿は家庭だけでなく保育園でも日々見られ、関わる大人が戸惑う瞬間が多々あります。

しかし、癇癪は「成長が遅れているサイン」ではなく、子どもが自分の感情と向き合いながら社会性を身につけていく過程でよく起こる自然な行動です。

本記事では、保育士として多くの子どもと関わってきた視点から、3歳までの癇癪の特徴と寄り添い方、そして家庭で今日からできる対処法を丁寧にまとめました。少しでも気持ちが軽くなるヒントになれば幸いです。

3歳までの癇癪はなぜ起こる?成長と発達の視点から

言葉より先に感情があふれる時期

1〜3歳は、感情の爆発力が最も大きい時期です。嬉しい・悲しい・悔しい・怖いといった強い感情があるにもかかわらず、それを正確に言葉で伝えるだけの語彙や表現力が追いつきません。

保育園でも「貸してと言いたいのに言えなくて泣く」「やりたいことがあるのに大人に伝わらず怒る」といった姿がよく見られます。これは、子どものせいではなく“脳の発達の途中”である証拠。前頭前野という感情をコントロールする部分がまだ未熟で、大人のように気持ちを切り替えることが難しいのです。

欲求と自立心がぶつかる「イヤイヤ期」の背景

2歳頃から「自分で!」「イヤ!」といった言動が増え始めます。これは単なるワガママではなく、成長に欠かせない「自立心」が強くなった証です。

保育士の立場から見ると、この時期の子どもは“自分でやりたい気持ち”“まだうまくできない現実”がぶつかり、とても疲れやすく不安定になりやすい傾向があります。

たとえば靴を履くとき、本人は「全部自分でしたい」のに、時間がかかって焦ってしまい、最終的に泣きながら靴を投げてしまうことも珍しくありません。こうした葛藤が積み重なると、癇癪につながりやすくなるのです。

保育園でよく見る“癇癪の始まりパターン”

癇癪には前兆があります。保育の現場でよく見られるのは、

 ・遊びの手が急に止まる
 ・視線が泳ぎ始める
 ・声のトーンが変わる
 ・小さく「イヤ…」と言い、徐々に大きくなる
といったサインです。

これらは「自分でもおさえきれなくなりそう」という心の揺れの合図。保育士はこの段階で言葉かけをしたり、環境を変えたりすることで癇癪を未然に防ぐ工夫を行っています。

積み木遊びの最中、集中が途切れて表情が曇り始めた幼児。癇癪の前兆があらわれている様子を静かに切り取った場面。

家庭でよくある癇癪の場面と困りごと

思いどおりにならないと泣き叫ぶ

「もっとお菓子が食べたい」「お風呂に入りたくない」「服を自分で選びたい」。これらは日常的にあるシーンですが、子どもにとっては大人が想像する以上に“大切なこだわり”。そのこだわりが崩れた瞬間、怒りと悲しさが混ざり合い、大きく爆発することがあります。

保育園でも「順番が違うだけで泣き崩れる」など頻繁にあり、保護者の方と共有すると「家でも同じです」という声をたくさん聞きます。それほど、この時期は“順序や役割に敏感”なのです。

外出先で寝転ぶ・叫ぶ

公共の場で癇癪が起こると、周囲の視線が気になり、親の心が一気に追い詰められます。スーパーでカートから降りたい、買ってほしいものがある、公園から帰りたくない…。

理由はさまざまですが、子どもは「今ここで気持ちが爆発してしまった」だけで、決して大人を困らせようとしているわけではありません。

保育士の経験上、外出先の癇癪は“疲れ・空腹・刺激の多さ”が重なると起きやすくなります。まずは安全を確保し、できれば静かな場所へ移動することで落ち着くことがあります。

兄弟げんかから発展する癇癪

兄弟(姉妹)がいる家庭では、「順番」「おもちゃ」「ママに甘えたい気持ち」などが重なり、癇癪が急に強まることがあります。

保育園でも“同年代の友だち”との関わりで同じような場面が起こるため、大人がどう介入するかでその後の落ち着き方が大きく変わります。

大切なのは、どちらかをすぐに悪者にしないこと。「貸したくない気持ちもあるよね」「これは順番にしよう」など、どちらの気持ちも丁寧に拾うと、子どもは落ち着きやすくなります。

おもちゃを巡って取り合いになっている幼児たちの様子。距離をとった安全な構図で、気持ちの衝突が生まれる瞬間を表す場面。

保育士が実践する「落ち着くまでの関わり方」

安全確保を最優先にした抱え方・環境づくり

癇癪の最中は、子ども自身も自分の体をコントロールできていません。そのため、周囲に固い物があるとぶつかる危険があります。保育士はまず周囲をすばやく把握し、必要であれば静かなコーナーに移動させ、安全が守られた状態で気持ちが落ち着くのを待ちます。

体を支えるときは、大人の腕力で押さえつけるのではなく「暴れる勢いを受け止める」姿勢を基本とします。安心感と安全を同時に守るためです。

否定せず“気持ちを言語化”するサポート

癇癪の渦中にいる子どもは、自分の気持ちを言語化できず苦しい状態にいます。そこで大人が“気持ちの代わりに言葉をそっと置く”ことが大きな助けになります。

「やりたかったんだね」「これじゃイヤだったんだよね」など、短い言葉でOK。否定されると怒りが強くなる一方、気持ちを理解してもらえると表情が緩み、次第に泣き方が変わることがよくあります。

ほっとできる“切り替え場所”の用意

保育園では、気持ちが高ぶった子が落ち着けるように、クッションスペースや読み聞かせコーナーなど“安心できる場所”を設けています。環境の力は大きく、無理に話しかけるより効果的です。

家庭でも、リビングの隅にお気に入りのぬいぐるみを置くなど、子どもが「ここなら安心できる」と思える場所があると、癇癪からの切り替えがスムーズになります。

絵本コーナーで気持ちを切り替えている幼児。落ち着いた環境で安心して過ごしている様子が伝わる場面。

家庭でできる癇癪対処法5つ

1.予測できる癇癪は「先回り」で減らす

癇癪の多くは、疲労・空腹・刺激過多などの条件がそろったときに起こりやすくなります。保育園でも、午前の活動量が多い日は早めに休憩を入れたり、散歩の距離を調整するなど、事前の工夫を大切にしています。

家庭では、外出前に軽食を準備したり、人混みを避けたりするだけでも、癇癪の頻度がぐっと減ることがあります。

2.選択肢を渡して主体性を守る

「着替えなさい」ではなく「こっちとこっち、どっちの服にする?」と選択肢を渡すと、子どもの“自分で決めたい気持ち”が満たされやすくなります。

保育士の現場では日常的に使われるテクニックで、子どもの自立心を尊重しながら混乱を減らすことができます。

3.親が落ち着くことで安心が伝わる

癇癪が強まると、親の心も不安と焦りでいっぱいになります。しかし、大人の緊張は子どもに伝わりやすいため、まず大人が深呼吸するだけで状況が変わることがあります。

「一度気持ちを落ち着けてから関わる」ことは、保育士も意識している大切なスキルです。

4.気持ちが収まったあとの“振り返り”が鍵

癇癪の最中は言葉が入らなくても、落ち着いたあとなら素直に話ができることがあります。「どうしたかったのかな?」と短く聞くだけでも、子どもは自分の気持ちを整理する経験ができます。
反省を迫る必要はありません。“気持ちを知るための会話”が自己調整能力の育ちにつながります。

5.繰り返す癇癪が心配なときの相談先

癇癪の強さや頻度が日常生活に支障をきたしていたり、保護者自身が限界を感じている場合、専門機関のサポートを受けることはとても大切です。

子育て支援センター自治体の発達相談保健センターなどは身近に利用でき、無料相談が多いのも特徴です。大人が安心して関われる環境づくりは、子どもの落ち着きにも良い影響を与えます。

癇癪が収まった後、親子が落ち着いて向き合い、気持ちを確かめ合っている場面。安心感のある家庭の雰囲気が伝わる構図。

3歳を過ぎると癇癪は減る?成長の目安と受診の目安

徐々に見られる自己調整の発達

3歳を過ぎると語彙が増え、気持ちを伝える手段が広がるため、癇癪の頻度は少しずつ減る傾向にあります。とはいえ、すべての子が同じペースではありません。保育士の立場から見ても、4歳になって落ち着く子もいれば、5歳頃に安定する子もいます。個人差はとても大きいものです。

保育士が感じる「落ち着き始めるサイン」

 ・泣きながらも大人の声が届くようになる
 ・感情が高ぶっても、以前より回復が早い
 ・「いやだった」と言葉で説明できる場面が増える

これらは、少しずつ自己調整力が育っている良いサインです。小さな前進を丁寧に拾うことで、子どもの自信にもつながります。

生活に支障が大きい場合の相談先

癇癪が激しいまま長期間続き、睡眠・食事・外出などに大きな影響が出ている場合には、早めに専門機関へ相談することをおすすめします。

発達相談窓口では、一人ひとりの状況に合わせたアドバイスが受けられ、家庭でも取り組みやすい方法を一緒に考えてくれます。

相談窓口へ向かう親子の後ろ姿。支援を求めて行動しようとする場面を穏やかに切り取った構図。

まとめ|癇癪は“成長の音”と向き合い方で変わる

癇癪は、大人にとっては大変な行動に見えますが、子どもにとっては「自分の気持ちをどう扱うか」を身につけていくための重要なプロセスです。

大人が寄り添う姿勢や環境づくりによって、少しずつ落ち着きやすくなり、自分で気持ちを整理する力が育っていきます。

ひとりで抱え込む必要はありません。家庭・保育園・専門機関がつながることで、子どもも大人も安心して成長のステップを進んでいくことができます。

・・・今日も一日ちはるびより

関連記事

子どものイヤイヤ期を乗り越える声かけのコツ|保育士が教える毎日がラクになる関わり方