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「うちの子、野菜を全然食べてくれないんです」「なぜか甘いものばかり欲しがる」――そんな声を保育の現場でもよく耳にします。実は、子どもの“食べ物の好み”は、3歳までの経験が深く関係しているといわれています。
この時期の味覚体験や食卓の雰囲気が、のちの「食べる力」の基礎をつくるのです。本記事では、保育士の視点から、味覚の発達メカニズム、好みが形成される仕組み、そして家庭でできる工夫を、実体験を交えて詳しく解説しますね。
なぜ3歳までが「食の好み」を決めるカギなの?
生まれたばかりの赤ちゃんは、実はすでに味覚を持っています。母乳には母親の食事の影響がわずかに反映されており、赤ちゃんは「甘味」「旨味」に敏感です。こうした初期の味覚経験が、食への“安心感”の土台になります。
離乳食が始まる生後5〜6か月頃から、味覚の発達が一気に加速。脳の味覚野が成長し、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味を少しずつ識別できるようになります。この時期にどれだけ多様な味・香り・食感に触れるかが、その後の“食の好奇心”に直結します。
たとえば、にんじんやかぼちゃの自然な甘さ、ほうれん草のほろ苦さ、だしの旨味――こうした体験の積み重ねが、味覚の「記憶」として残り、将来の食の幅を広げます。逆に、濃い味つけや同じメニューばかりでは、味覚の幅が狭くなりやすい傾向もあります。
保育園でも、3歳頃までに“食べる楽しさ”を感じた子は、偏食が少なく、初めての食材にも前向きにチャレンジする姿が多く見られます。

味覚は「経験」で育つ――繰り返しが育む“慣れ”と“信頼”
味覚は生まれつきの感覚だけでなく、「経験」によって豊かに育ちます。最初は嫌がっていた食材でも、10回ほどの“出会い”を重ねるうちに、自然と受け入れられるようになるケースも少なくありません。
これは「単純接触効果」と呼ばれ、心理学的にも裏づけられた現象です。人は見慣れたり、経験を重ねたりするものに好感を持つ傾向があります。
保育園では、苦手な食材も毎日少しずつ出してみる工夫をしています。「食べられたら花丸!」ではなく、「今日はにおいをかげたね」「ちょっと舐めてみたね」と、小さな挑戦を積み重ねていくスタイルです。
無理に食べさせるのではなく、興味の“きっかけ”をつくることが大切です。
また、食べ物を“安全なもの”と感じるためには、食卓そのものが安心できる空間であることが欠かせません。怒られたり、焦らされたりすると、味覚そのものがストレスと結びついてしまいます。逆に、「おいしいね」「これ、いいにおいだね」という言葉かけが、食への信頼を育てます。

五感を使った「食の体験」が味覚を育てる
味覚は「舌」だけで感じるものではありません。香り、見た目、触感、音、温度――すべてが“おいしさ”に関わっています。
例えば、にんじんのオレンジ色、みそ汁の湯気の香り、ごはんを噛むときの音。これらの五感体験が「食べるって楽しい」と感じる心を育てます。
保育園では、季節の食材に触れる活動を通じて食への興味を深めています。秋なら「さつまいもを触ってみよう」、夏は「きゅうりのヘタのにおいをかいでみよう」といった五感を使った遊びです。
家庭でも、「今日はいいにおいだね」「これ、つるつるしてるね」と声をかけるだけで、子どもの感覚はぐっと広がります。

保育士が見てきた「食べる意欲」を育てる3つのコツ
① 食卓を“安心できる場所”にする
「食べなさい!」と叱っても、子どもの心はかたくなになります。食卓は“心がほっとする場所”であることが大切です。
たとえ少ししか食べられなくても、「今日はこれだけ食べられたね」と前向きに受け止める姿勢が、子どもの意欲を支えます。
保育士として感じるのは、食事中の親の笑顔が何よりの調味料になるということ。笑顔で食卓を囲むと、子どもは「ここにいると安心する」と感じ、自然と箸が進みます。
② 「食べてみよう」を共感で促す
大人の「おいしいね」「シャキシャキしてるね」といった共感の声かけは、子どもの感情を動かす力があります。
食べることを“体験の共有”として捉えると、子どもは無理なく食に興味を持つようになります。保育園では、友だち同士で「これ、好き!」「おかわりしたい!」というやりとりが、自然な食育につながっています。
③ 苦手な食材は“形を変えて再登場”
ピーマンが苦手な子も、細かく刻んでハンバーグに混ぜたり、卵焼きに加えたりすると食べられることがあります。
一度で克服を目指すよりも、少しずつ「知っている味」「大丈夫な食材」にしていくことがポイントです。

家庭でできる“味覚を育てる習慣”
忙しい毎日の中でも、少しの工夫で味覚を豊かにすることができます。
- 旬の食材を取り入れる(季節を感じながら食べる)
- 家族で「おいしい」を共有する時間をもつ
- 味つけをできるだけシンプルに(素材の味を楽しむ)
- 食卓を整える(照明や食器も“おいしさ”の一部)
また、食事の時間だけでなく、買い物や料理の準備にも子どもを巻き込むのがおすすめです。「今日はどの色の野菜にしようか?」「これ、いいにおいがするね」といったやりとりが、食への関心を育てます。

「好き・嫌い」は心の成長とともに変わる
食の好みは固定されたものではありません。成長とともに、嗜好や感情、体調によっても変化します。
「今は苦手」でも、「大きくなったら好きになった」という例は多くあります。焦らず長い目で見守ることが大切です。
保育現場でも、3歳を過ぎたあたりから食の幅が広がる子が多く見られます。友だちとの食事や行事食(七夕や節分など)を通して、「食べるって楽しい」という実感が少しずつ芽生えていきます。
大人が「どうせ食べない」と諦めずに、“できたこと”を一緒に喜ぶ――それが子どもにとって、最高のエネルギーになります。

まとめ:3歳までの“食の記憶”が一生を支える
食べ物の好みは、遺伝よりも“経験”によって形づくられるといわれています。3歳までの時期に、親や保育士とともに「食べるって楽しい」「おいしいって幸せ」と感じることが、将来の健康的な食生活の基礎になります。
一度の食事で完璧を目指さなくても大丈夫。今日の小さな「おいしいね」が、明日の“食べる力”を育てています。
困ったときは、厚生労働省や地域の栄養相談、保育園の先生などに相談してみましょう。
厚生労働省雇用均等・児童家庭局
楽しく食べる子どもに~食からはじまる健やかガイド~
・・・今日も一日ちはるびより
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