保育園で育つ“ありがとう”の心|保育士が感じた子どもの優しさと学び

保育園の保育室で、笑顔でおもちゃを手渡しながら「ありがとう」と伝える子どもたち。自然光に包まれた温かい雰囲気。

「ありがとう」と言われて、心がじんわり温かくなった経験はありませんか?
保育園で子どもたちと過ごす日々のなかで、小さな「ありがとう」がどれほど人の心をやわらかくするかを、私は何度も目の当たりにしてきました。

大人になると、感謝を言葉にすることが少なくなりがちですが、子どもたちは本能的に“ありがとう”の力を知っています。

この記事では、保育園でのリアルなエピソードや子どもたちから学んだ気づきを通して、「ありがとう」の魔法をもう一度思い出してみたいと思います。

はじめに|“ありがとう”が持つ不思議な力

「ありがとう」という言葉を口にすると、言った人も言われた人も、どちらも少しだけ温かくなります。

保育園という場所では、その瞬間が日常のあちこちに散りばめられています。
泣いていた子が落ち着いたとき、手をつないで歩くとき、コップを取ってもらったとき。

大人が見過ごしてしまうほどの小さな行為の中に、「ありがとう」が溶け込んでいるのです。

私自身も、保育士として何年も子どもたちと関わる中で、子どもの「ありがとう」に救われたことが何度もあります。

疲れた日や、心に余裕がないときに聞くその言葉は、不思議と力を与えてくれるのです。

登園時に保育士へ「おはよう」と声をかける子どもたちの様子。朝の光が差し込む園庭でのあいさつシーン。

おもちゃを貸してくれて「ありがとう」

ある日の自由遊びの時間。
ブロックを積み上げていたGくんが、そのブロックを全部独り占めにしてしまいました。

そばでじっと待っていたHちゃんが少し寂しそうにしているのを見て、「どうぞ」とGくんが一つのブロックを差し出しました。

するとHちゃんは、ぱっと顔を明るくして「ありがとう!」と大きな声。
その瞬間、Gくんの顔もにっこりとほころびました。

たったそれだけのこと。でもその小さな出来事を通して、二人の間には確かな“信頼”が生まれたように見えました。

「ありがとう」は、相手の存在を認める言葉。

小さな子どもたちはまだ社会のルールを知らないけれど、この言葉を通して「人と関わる心地よさ」を感じ取っているのです。

翌日、同じ場面でHちゃんがGくんにブロックを渡す姿がありました。
「昨日のありがとう」が、次の日の優しさに変わっていたのです。

子どもの関わりの中で、“感謝”はしっかりと伝染していくのだと感じました。

保育室でブロックを貸し合い笑顔を交わす園児たち。自然光の差す温かい室内。

ごはんを食べて「ありがとう」

給食の時間になると、保育園の中には「いい匂いがするね」「今日のごはん、なにかな?」という会話が広がります。

調理室の前を通るたびに、子どもたちは「先生、今日もありがとう」と声をかけてくれることがあります。

まだ小さな子どもたちが、自分のために作ってくれている人の存在を感じ取り、自然に「ありがとう」を伝える姿は、本当に美しいです。

ある日、給食の先生が少し落ち込んでいる様子でした。
すると年長のKくんが「先生のごはん、ぼく大好きだよ!今日もありがとう!」と満面の笑みで言ったのです。

その瞬間、調理室から聞こえた先生の「うれしい〜!」という声に、みんなが笑顔になりました。
言葉は見えないけれど、確かに心を動かす力を持っています。

「ありがとう」は、子どもたちの中に自然に根づいています。
それを毎日聞いていると、大人の私たちのほうが“思い出させてもらっている”のかもしれません。

給食の後、「おいしかった、ありがとう」と調理員に伝える園児たちの笑顔。明るい昼の光の中。

ケンカのあとに生まれる「ありがとう」

子どもたちの世界でも、もちろんケンカはあります。
積み木を取り合ったり、絵本を読む順番でもめたり。
でも、その後の展開がとても興味深いのです。

ある日、LくんとMちゃんがクレヨンの取り合いをして、どちらも泣いてしまいました。
私はそっとそばに寄り添いながら、二人に「どうしたかったの?」と聞くと、Lくんが「貸してあげたかったのに、先に取られた」と言いました。

その言葉を聞いたMちゃんは「ごめんね」と小さな声でつぶやきました。
しばらく沈黙のあと、Lくんが「ありがとう」と言ったのです。
その一言に、空気がふっとやわらかくなりました。

“ごめんね”“ありがとう”は、実はとても近い言葉です。
どちらも、相手を思う気持ちから生まれるもの。
子どもたちは、そうした言葉の力を、経験を通して自然に身につけていきます。

クレヨンを前に、笑顔で仲直りする子どもたち。午後の光がやさしく差し込む保育室。

大人になると忘れてしまう感謝の言葉

大人になると、日常の中で「ありがとう」を言う機会が減ってしまうことがあります。
家族には「言わなくても分かるだろう」、職場では「言うタイミングがない」と思ってしまう。

でも、感謝を言葉にしないことで、人とのつながりが少しずつ薄れていくように感じることはありませんか?

あるお迎えの時間、Aちゃんのお母さんが私に「先生、いつも本当にありがとうございます」と言ってくれました。
その一言に、思わず胸が熱くなりました。

一日の疲れも吹き飛ぶほどの力が、たった八文字の言葉の中にある。
“ありがとう”は、言葉以上の贈り物なのだと改めて実感しました。

子どもたちは、そんな大人のやり取りをしっかり見ています。
感謝の言葉を交わす大人の姿を見せることも、子どもにとって大切な学びのひとつです。

保育園の玄関で、保護者が保育士に「ありがとう」と伝える夕方のシーン。温かな光に包まれた雰囲気。

保育園で学んだ“ありがとう”の魔法

保育士として働く中で感じたのは、「ありがとう」には3つの魔法があるということです。

1. 相手をうれしくする魔法

「ありがとう」は相手の存在を肯定する言葉です。
“あなたがいてくれてうれしい”という気持ちを伝える力があります。

それは褒め言葉よりもずっとシンプルで、でも心に残る。
子どもたちはこの魔法を、本能的に使いこなしています。

2. 自分の心を温かくする魔法

感謝の言葉を口にすると、心の中に少し余裕が生まれます。
誰かに「ありがとう」と伝えることで、自分自身がやさしい気持ちになれる。

これは心理学的にも証明されている現象ですが、保育園ではそれが毎日目の前で起きています。

3. 人と人をつなげる魔法

“ありがとう”は人と人の間に見えない糸を結びます。
その糸が何本も重なり、やがて温かな関係の網が広がっていく。

子どもたちが互いに感謝し合う姿を見ていると、社会の根っこはきっとここにあるのだと感じます。

帰り際、子どもたちが「ありがとう」と手を振る光景。夕方の柔らかい光と温かい雰囲気。

まとめ|今日からもう一度「ありがとう」を

子どもたちと過ごす中で、私は“ありがとう”を素直に伝えることの大切さを思い出しました。
感謝は誰かのために言うようでいて、実は自分の心を整える行為でもあります。

  • 小さなことにも感謝する
  • 感じたらすぐに言葉にする
  • 照れずに「ありがとう」を伝える

保育園での一日は、「ありがとう」で始まり「ありがとう」で終わります。
その言葉があるだけで、空気が少しやさしくなるのです。

今日、あなたも誰かに「ありがとう」と伝えてみませんか?
きっと心の中に、小さな奇跡が生まれるはずです。

・・・今日も一日ちはるびより

関連リンク:
・「子どもの優しさに気づく瞬間」
・「保育園で育まれる“思いやり”の心」
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