運動会で大泣きする子どもにどう向き合う?保育士が教える心強いサポート法

保育園の運動会で、泣きそうな園児を保育士が優しく励ましている様子。穏やかな秋の陽ざしに包まれた自然な写真。

「せっかくの運動会なのに、うちの子が大泣きして出られなかった…」そんな経験をした保護者の方は少なくありません。保育園の運動会は、子どもにとって“非日常”の大きな行事。緊張や不安、環境の変化が重なって涙が出てしまうのは自然なことです。

この記事では、保育士の視点から「なぜ泣くのか」「どう支えたら安心できるのか」をわかりやすく解説します。家庭でできる準備、当日の対応、そして園との連携ポイントまで、実践的なサポート法を紹介します。

運動会で泣く子どもはなぜ多い?──涙の裏にある心理背景

非日常の雰囲気が引き起こす「緊張」と「混乱」

運動会は、園児にとっていつもとまったく違う空気が流れる日です。大勢の保護者やカメラ、飾り付けられた園庭、いつもより張りつめた先生たちの表情。こうした非日常の要素が、子どもの感情を一気に揺さぶります。

特に3~4歳児は環境変化への順応がまだ難しく、「いつもと違う」だけで不安を感じやすい時期。泣くことで「怖いよ」「助けて」というサインを出しているのです。

注目されるプレッシャーと「失敗したらどうしよう」不安

保護者の視線が集まるステージ上での発表やかけっこ。大人が思う以上に、子どもたちは“見られる”ことを強く意識します。「間違えたらどうしよう」「ママが笑ってくれないかも」と不安を感じ、涙で表現してしまうこともあります。

練習段階の「できない経験」や疲れも影響

運動会の練習期間は、子どもたちにとって体力的にも心理的にも負担の大きい時期です。繰り返し練習する中で「うまくできない」「先生に注意された」などの経験が重なると、当日への苦手意識が強まりやすくなります。

運動会で泣く幼児を保育士が抱きしめて安心させている場面。保護者が見守る穏やかな園庭の光景。

家庭でできる「事前準備」──泣かないための安心づくり

日常の中で“運動会ごっこ”を取り入れる

家庭でできる最も効果的な準備が「遊びながら慣れる」ことです。かけっこ、行進、体操などを親子で楽しくやってみましょう。順位よりも「一緒に走って楽しかったね」という感情を育てることが大切です。

写真・動画でイメージを共有する

園の運動会写真や動画があれば、「お友だちも頑張ってるね」「こんな音楽で踊るんだね」と一緒に見ることで、当日の流れを想像しやすくなります。イメージが具体化すると、子どもの心が安定します。

「泣いてもいい」と先に伝えておく

「泣いてもいいよ」「ドキドキするのは当たり前だよ」と、事前に“泣いても大丈夫”の許可を出しておくことで、子どもの心はぐっと軽くなります。プレッシャーを減らすことが、結果的に涙を減らす最短ルートです。

親の声かけで子どもの安心スイッチを入れる

運動会前にどんな言葉をかけるかで、子どもの心の安定度が大きく変わります。「ちゃんとできるかな?」という確認型ではなく、「楽しもうね」「ママは応援してるよ」といった安心型の言葉を使うのがポイントです。

保育士の現場でも、緊張している子にはまず「見ててくれる人がいる」という感覚を与えるようにしています。

また、前夜や朝の支度中に「泣いちゃっても大丈夫」「頑張らなくてもいいよ」と一言伝えることで、プレッシャーが和らぎます。心理学的にも、“安心の許可”をもらうと自律神経が落ち着き、行動が安定しやすくなると言われています。

運動会前夜、パジャマ姿の母と娘が寝る前に微笑みながら会話している様子。温かい照明に包まれた安心感のある寝室。

運動会当日の対応──「泣いてしまった」時の上手な向き合い方

泣いたときは“落ち着かせる”より“受け止める”

子どもが泣き出したとき、まずやるべきは「泣かせ止める」ことではなく、「気持ちを受け止める」ことです。「怖かったね」「びっくりしちゃったね」と共感の言葉を添えましょう。感情が受け止められると、自然に落ち着くことが多いです。

スキンシップで安心を伝える

抱きしめる、手をにぎる、背中をやさしくトントンする。言葉よりも安心を与える非言語コミュニケーションが有効です。人前で泣くことを恥ずかしがらず、「あなたの気持ち、ちゃんと届いてるよ」と示すことが大切です。

競技への復帰を焦らない

一度泣いてしまった子どもをすぐ競技に戻そうとすると、さらに不安が高まることもあります。先生と相談しながら「見ているだけでもOK」にするなど、柔軟に対応してあげましょう。

保護者の表情は“安心のサイン”になる

当日、子どもが泣きそうになったとき、保護者の表情が大きなカギを握ります。親が焦った顔を見せると、子どもは「やっぱりダメなんだ」と感じてしまいます。逆に、笑顔でうなずく姿を見せると、それだけで安心ホルモン(オキシトシン)の分泌が促されます。

「がんばれ!」という大声よりも、遠くからそっと手を振る・口パクで「大丈夫」と伝えるなど、穏やかなサポートが効果的です。特に4〜5歳児は親の表情をよく観察しています。カメラ越しではなく、子どもの目線をまっすぐ見つめて微笑むだけでも、泣き止むことがあります。

“思い出を残す”ことを焦らない

運動会では「写真や動画を撮りたい」という気持ちが強くなりがちですが、泣いているときにカメラを向けるのは避けましょう。子どもにとって「泣いた瞬間を撮られた」という記憶は、自己否定感につながる場合もあります。撮影よりも“寄り添う時間”を優先することで、親子の信頼が深まります。

運動会で子どもに微笑みながら手を振る母親。穏やかな光の中、応援席から見守る姿。

保育園での支援──保育士が意識している3つの視点

「泣く=感情表現」を尊重する

保育士は、子どもが泣くことを「表現の一つ」と捉えます。泣く=悪いことではなく、「今この子がどう感じているか」を知る大切なサインです。泣くことを許される環境が、次への挑戦意欲につながります。

“安心のルーティン”をつくる

入場前に先生と手をつなぐ、スタートラインで深呼吸するなど、子どもが落ち着くルーティンを設定することで、当日の緊張を和らげられます。

チームで支える──担任・補助・保護者の連携

保育園では、担任だけでなく複数の職員が役割を分担して子どもを支えています。もし泣いてしまっても、誰かが抱き上げ、別の先生が周囲のフォローをする。その体制があることで、親も安心して見守れる環境が整います。

園と家庭の連携で“泣かない経験”を積み重ねる

「泣いてしまったあと」のフォローを共有する

運動会後、保護者と園で「どのタイミングで泣いたのか」「その後どう立ち直ったのか」を共有しましょう。家庭での声かけや園での練習内容をすり合わせることで、次の行事での安心感が高まります。

次の機会に向けた“小さな成功体験”づくり

次回の発表会や行事では、「出られた」「手を振れた」など小さな成功をたくさん積み重ねることが大切です。完璧を求めず、「前より一歩進めたね」とほめることで自信が育ちます。

「相談」は早めに、具体的に伝える

もしお子さんが普段から集団行動を苦手としていたり、人前で泣くことが多い場合は、運動会の1〜2週間前に担任保育士へ相談しておくのがおすすめです。園では、子どもの特性やその日の気分に合わせたサポート計画を立てられます。

たとえば「お母さんと一緒に入場する」「最初の競技だけ保育士と手をつなぐ」「応援席の近くに立つ」など、柔軟な工夫が可能です。

行事後のフィードバックを未来につなげる

運動会が終わったあと、保護者が「今年は泣いちゃったけど、来年はどうなるかな?」と前向きに話すだけでも、子どもに“次は頑張りたい”という気持ちが芽生えます。園では行事後の職員ミーティングで、子どもの反応を共有して次の支援に活かしています。

運動会後、教室で保育士と母親が笑顔で話している様子。木の温もりを感じる室内の雰囲気。

「うちの子だけ泣いてしまって恥ずかしい」「他の子は頑張っているのに…」と落ち込む保護者も多いでしょう。しかし、子どもの泣きには“心の成長の途中”という意味があります。

親の不安や焦りは、子どもに伝わりやすいもの。自分を責めず、「泣いても成長の一部」と考えることが、子どもを一番安心させるサポートになります。

専門家コメント:子どもの「涙」を発達のサインとして捉える

発達心理士の見解では、「泣く」という行動は、自己主張と自己防衛の両方の側面を持つと言われています。

3〜6歳は“社会的感情”が芽生え始める時期で、周囲との比較や人目を気にする意識が強くなる段階です。運動会で泣くのは、まさに心の成長が進んでいる証。大切なのは、泣きを抑えこむのではなく、表現として受け止めたうえで「どう安心させるか」を考えることです。

また、泣きが長く続く・行事以外でも強い不安が見られる場合は、無理に慣らそうとせず、園の心理士や地域の子育て支援センターなど専門機関への相談も検討を。日本臨床心理士会などの公的機関でも、無料で相談先を紹介してもらえます。

「お近くの相談機関を探す」

まとめ:泣くことは「弱さ」ではなく「今を頑張っている証」

運動会で大泣きしてしまう子どもは、ただ“怖がっている”だけでなく、「頑張りたいけど不安」と葛藤しているのです。

その気持ちを理解し、受け止め、安心できる環境を整えることが、親と園の大切な役割。泣くことは成長の通過点であり、次の挑戦への準備です。親子で少しずつ乗り越えていきましょう。

・・・今日も一日ちはるびより

→関連リンク文:
・「子どもの気持ちを受け止める言葉がけのコツ」
・「行事前に親ができる“安心準備リスト”」