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夜、子どもが眠ったあと。 ふとスマホを開いて、同じ年頃の子の動画を見てしまうこと、ありませんか? 「ちゃんと話してる」「もうお箸を使ってる」「トイレもできるの?」 そんな姿を見るたびに、胸の奥にチクリとした痛みが走る。 そして、小さくため息をついて、「どうしてうちの子だけ…」とつぶやく。
その瞬間、心が少し沈んでしまうのは、あなたが子どもを真剣に見つめている証です。 「大丈夫」と言い聞かせながらも、どこかで焦ってしまう。 でも、どうかその優しさを、自分を責めるために使わないでください。 それは、まっすぐな“愛情”の表れです。
保育園の現場では、そんな保護者の想いをたくさん見てきました。 そして、何よりも強く感じるのは——どの子も、ちゃんと育っていくということ。
この記事では、「うちの子だけ?」と悩んだときに思い出してほしい考え方や、日常の中でできる小さな心の整え方を、保育士の視点からお伝えします。
「うちの子だけ?」と思うのは、親のやさしさの証
「他の子はもうできているのに」「うちの子はまだ…」。 保護者の方から何度も聞いてきた言葉です。 けれど、その一言には“わが子を心から想う気持ち”が詰まっています。
たとえば、トイレトレーニングに悩むお母さん。 「同じクラスの子はもうおむつが外れてるのに」と焦っていました。
でもAくんは、先生と一緒にトイレの絵本を読んで、「できたらかっこいいね」と笑っていました。
数週間後、初めて「おしっこ」と言えた瞬間。 お母さんは涙を流しながら「この日を待ってた」と抱きしめました。 焦らず待つ時間は、決してムダではありません。
成長は、“早いか遅いか”ではなく、“その子のペース”です。 保育士として感じるのは、「ゆっくり育つ子ほど、じっくり力を蓄えている」ということ。 小さな芽が根を張り、季節を越えて花を咲かせるように、子どもたちもそれぞれの春を迎えます。
比べるより、「今の子ども」を見つめて
比べる気持ちは、悪いことではありません。 「目安を知る」「安心したい」という自然な思いでもあります。 でも、他の子を軸にしてしまうと、親も子も息苦しくなってしまいます。
子どもの成長は、まっすぐな坂道ではなく、上ったり下がったりを繰り返す“山道”のようなもの。 昨日できたことが今日はできない。昨日泣かなかったのに今日は泣く。 でも、それは成長が止まったのではなく、次のステップに進むための“準備期間”です。
保育園では、「昨日との違い」を大切に見ています。 昨日より少し長く座っていられた、昨日より先に「ありがとう」と言えた。 その小さな変化が、確かな成長の証です。
見守ることの難しさと、信じて待つ勇気
「見守る」というのは、言葉にすると簡単ですが、実はとても難しいこと。 子どもが困っている姿を見ると、つい手を出したくなる。 でも、ほんの少し“待つ”だけで、子どもは自分の力を発揮することがあります。
積み木を倒して泣きそうなCちゃんに、「どうしたら立つと思う?」と声をかけると、涙をこらえながら考え始めました。 数分後、自分で工夫して積めた瞬間の笑顔は、何よりも輝いていました。 「自分でできた!」という体験は、子どもにとっての宝物です。
見守るとは、「信じて待つこと」。 子どもの力を信じて、失敗の時間ごと受け入れることです。
子どもの個性は、“比較”では見えない
保育士として日々感じるのは、子どもの個性は「違い」ではなく「色」だということです。 同じ年齢でも、性格も興味も伸びるタイミングもまったく違います。
たとえば、声が小さい子は“観察する力”に優れていたり、 走り回る子は“表現力と社交性”のかたまりだったりします。 それぞれが得意な形で、自分らしさを表現しているのです。
私たち大人にできるのは、その“色”を消さずに伸ばしていくこと。 「静かだけど、よく見てるね」「元気だね、力強いね」 そんな言葉がけひとつで、子どもの世界はぐんと広がります。
「できない」ではなく、「これからできる」
大人が思う「まだできない」は、子どもにとっての「今、育っている途中」。 保育園では、どの子も“できる瞬間”を迎えます。 そのときに共通しているのは、周囲の大人が焦らず、温かく見守っていることです。
お昼寝が苦手だったDくん。いつも眠る前に泣いていましたが、先生が毎日同じ言葉をかけ続けました。 「眠くなったら、ここで休もうね。先生そばにいるよ。」
ある日、Dくんは泣かずに目を閉じ、ゆっくりと眠りました。 その姿を見たお母さんも、先生も、そっと涙をぬぐいました。 “できるようになる日”は、必ず来ます。
悩んだときは、話していい
子育ては、想像以上に孤独を感じやすいものです。 まわりに相談しても、「大丈夫だよ」と言われると、逆に心が追いつかないこともあります。 そんなときは、専門家や保育士に話してみましょう。 「話してみたら涙が出た」「共感してもらえてホッとした」 そんな声を何度も聞いてきました。
話すことは、弱さではなく“勇気の行動”です。 そして、あなたが誰かに助けを求める姿を、子どもはちゃんと見ています。 その背中から、「困ったときは助けを求めてもいいんだ」と学んでいくのです。
親が安心すると、子どもも変わる
保育園ではよく、「お母さんが少し安心すると、お子さんも変わる」と言います。 不思議なことですが、子どもは大人の心を敏感に感じ取ります。 親が安心して笑っていると、子どもも自然と笑顔になります。
Eちゃんのお母さんは、登園時にいつも涙を浮かべていました。 Eちゃんも泣いて離れられず、毎朝つらい時間でした。 そこで先生は、お母さんに「少しだけ笑顔で“いってきます”と言ってみましょう」と提案しました。
最初はぎこちなかった笑顔が、数日後には自然なものになり、Eちゃんも少しずつ泣かなくなりました。 大人の表情は、子どもにとって“安心のサイン”なのです。
親の笑顔が、子どもにいちばん効く魔法
子どもは、親の笑顔が大好きです。 どんな言葉よりも、その笑顔が「大丈夫だよ」を伝えてくれます。 完璧じゃなくていい。むしろ、失敗して笑い合うくらいでちょうどいいのです。
忙しい日々の中で、できることはたったひとつ。 “今日も一緒に過ごせたね”と声をかけ、抱きしめる。 その繰り返しが、子どもにとって何よりの安心になります。
まとめ:焦らなくても、ちゃんと育っている
「うちの子だけ?」と悩むのは、それだけ子どもを真剣に見ている証。 比べず、焦らず、信じて待つこと。 その時間こそが、子どもの未来を育てる栄養です。
保育園で日々感じるのは、どの子も必ず成長していくということ。 時間はかかっても、子どもは必ず自分の力で前に進みます。 だからどうか、焦らず、今日の笑顔を大切にしてください。
今日も、わが子の“いま”をまるごと受け止めて。
それが、最高の愛情であり、未来へのエールです。
・・・今日も一日ちはるびより
→関連リンク文:「焦らず見守る子どもの発達サイン」や「子どもの“できた!”を増やす言葉かけ」もおすすめです。