「子どもの泣き声でイライラしたときのリセット方法|保育士が伝える心を整える習慣

泣く子どもをやさしく見守る母親が、リビングで静かに寄り添っている写真。

子育ての毎日は、愛しさと同じくらい「思い通りにならないこと」の連続です。子どもの泣き声を聞くと、胸が締めつけられるような思いをしながらも、時にはイライラがこみ上げてくる――そんな経験をしたことのある親は少なくありません。
わかっていても感情をコントロールできないとき、自分を責めてしまうこともあります。

でも、感情は誰にでも揺れるもの。大切なのは、イライラを否定するのではなく、上手にリセットする方法を持っておくことです。

この記事では、心理学や保育現場の視点から、気持ちを落ち着けるための実践的な方法と、日常でできる工夫を紹介します。

なぜ泣き声はイライラを引き起こすのか

子どもの泣き声は、私たちの神経を強く刺激します。特に高く尖った音や繰り返しのリズムは、脳の「扁桃体」と呼ばれる部分を刺激し、無意識のうちに“危険信号”として処理されます。

これは人間が生まれながらに持つ防衛反応であり、親として未熟だから感じるわけではありません。

保育士として働いていた頃、20人以上の園児が一斉に泣き出すこともありました。新しい環境、眠気、寂しさ……理由はさまざまです。そんなとき、私自身も「どうしよう、全員泣いてる!」と一瞬パニックになることがありました。

でも、深呼吸をして「一人ずつ見ていこう」と気持ちを切り替えると、次第に状況が整理できるのです。

つまり「泣き声に反応してしまうのは自然なこと」。まずは、その生理的な反応を理解し、自分を責めすぎないことがスタートラインです。

リビングで泣く子を見つめながら深呼吸する母親の後ろ姿

イライラを感じたときにできる3つのリセット法

① まずは「距離を取る」ことを恐れない

感情が大きく揺れたとき、いちばん効果的なのは「物理的な距離」を取ることです。子どもが安全な場所にいることを確認した上で、数十秒でもその場を離れましょう。

トイレやベランダ、廊下でもかまいません。その間に深呼吸をすることで、脳が“緊急モード”から“落ち着きモード”へと切り替わります。

保育現場でも、イライラしそうなときは職員同士で声を掛け合い、「ちょっと交代お願いね」と一時的に距離を取ることがあります。

これは放棄ではなく、冷静さを取り戻すための大切な判断。「距離をとる=逃げる」ではなく「優しさを守る行動」だと考えてみてください。

② 呼吸と「気づきの言葉」で自分を整える

心理療法の一つに「マインドフルネス呼吸法」という考え方があります。これは「今の感情に気づくこと」から始める方法です。

深く吸って、長く吐きながら、「いま、私は疲れている」「いま、焦っている」と心の中で言葉にしてみてください。それだけで、感情を客観視しやすくなります。

次に、「大丈夫」「私、ちゃんと頑張ってる」「落ち着こう」と、自分に優しく語りかけてみましょう。

こうした“自己受容”の言葉は、脳のストレス回路を和らげ、安心感を与える作用があります。言葉に出すのが恥ずかしい場合は、頭の中でつぶやくだけでも十分です。

私が保育士として現場にいたときも、子どもが泣きやまないときは、自分に「焦らなくていい」「泣いても大丈夫、今は見守る時間」と声をかけながら関わっていました。

大人が落ち着くことで、子どもも少しずつ安心していく——その瞬間を何度も見てきました。

穏やかに深呼吸をする母親の横顔

③ 「泣き声の理由」を探る視点を持つ

子どもが泣くとき、それは「困っている」「助けてほしい」というサインです。お腹がすいた、眠い、甘えたい、不安、退屈、痛い――理由はさまざまです。

大人がその理由を一瞬で理解することは難しいですが、気持ちを落ち着けて観察することで、少しずつ“パターン”が見えてきます。

たとえば、眠いときの泣き方は目をこすりながら大きな声、甘えたいときは抱っこで泣き止むなど、子どもなりの表現があります。

「どうして泣いているの?」と自分に問いかけるだけでも、怒りの矛先が“理解”へと向かうのです。

保育園でも、一見わがままに見える泣き方が、実は「おうちで寂しかった」「お友だちに先を越されて悔しかった」などの気持ちから出ていることがあります。大人がその背景に気づけたとき、泣いていた子がふっと安心して表情を緩めることも多いです。

泣く子どもを抱きしめる母親

日常の中でできる「感情ケアの習慣」

小さな“自分時間”を意識して作る

1日の中で、ほんの数分でも「自分を休ませる時間」を意識して作りましょう。温かいお茶を飲む、好きな香りを嗅ぐ、音楽を聴く、ストレッチをする――これらの小さな行動が、ストレスを減らす鍵です。

心理学では、こうした“マイクロブレイク(小休憩)”が、心の回復力(レジリエンス)を高めるとされています。完璧に時間を確保しようとする必要はなく、5分でも10分でもかまいません。自分のペースで「心を整える時間」を持つことが、長期的な安定につながります。

パートナーや家族と感情を共有する

「今日、少しイライラしてしまった」「うまく対応できなかったけど、また頑張ろうと思う」――そんな正直な気持ちを言葉にすることで、心は軽くなります。感情を抑え込むよりも、“分かち合う”ことがストレスを緩和させる一番の方法です。

私が保育士として感じたのは、「感情を共有できる相手がいるだけで、人は驚くほど落ち着く」ということ。

職員同士で「今日は泣きが多くて大変だったね」と笑い合うことで、次の日にはまた新しい気持ちで子どもたちと向き合えます。家庭でもそれは同じです。

キッチンで夫婦が穏やかに話す姿

支援機関を活用する勇気を持つ

子育て中にイライラや不安を感じることは、誰にでもある自然なことです。もしそれが長く続く場合や、どうしても気持ちが抑えられないときは、専門機関のサポートを受けましょう。

地域の子育て支援センター、児童相談所、自治体の子育てホットラインなどは、無料で相談できる窓口が多くあります。

話すことで思考が整理され、他者の視点を得ることができます。専門家は「正しい答え」を教えてくれるだけでなく、親の気持ちに寄り添いながら、安心できる環境を一緒に探してくれます。「相談する=弱さ」ではなく、「自分と子どもを大切にするための力」なのです。

子育て中の悩みや不安をひとりで抱え込まないでください。
全国の子育て支援・相談窓口リンク集

支援センターで相談員と話す母親の後ろ姿

子どもの泣き声と上手に付き合うために

子どもの泣き声にイライラしてしまうのは、あなたが子どもを真剣に思っているからこそです。感情が動くのは「心が健全に働いている証拠」。誰だって、毎日穏やかに過ごせるわけではありません。

泣き声を聞いたとき、「どうして泣いてるの?」の前に、「自分はいま、どんな気持ち?」と一度立ち止まってみてください。その一呼吸が、怒りをやわらげ、優しさを取り戻す第一歩になります。

子どもも親も、同じように成長途中。焦らず、完璧を求めすぎず、少しずつお互いに慣れていけば大丈夫です。

夕方のリビングで穏やかに微笑む母子の後ろ姿

まとめ

子どもの泣き声にイライラしてしまうのは、人として自然なこと。大切なのは、その感情を押し込めるのではなく、上手にリセットする方法を知っておくことです。距離をとる、深呼吸する、誰かに話す――そのどれもが「親として成長している証」です。

日々の小さなリセットが積み重なれば、心に余裕が生まれ、子どもとの関係もより穏やかになります。「今日はうまくいかなかった」と感じた日こそ、自分をねぎらってください。その優しさが、きっと子どもにも伝わります。

・・・今日も一日ちはるびより