夏になると、園庭には笑い声と水しぶきがあふれます。
キラキラ光る汗、泥んこになった手、そして「先生、見てー!」という元気な声。
その姿を見守るたびに、保育士としての心が温かくなる季節です。
でも同時に、夏は子どもたちの体にとっても大きな挑戦の時期。
体温調節がまだ上手にできない幼児たちにとって、ちょっとした疲れや水分不足が大きな不調につながることもあります。
保育園では「注意」よりも「寄り添い」を大切にし、子どもたちの笑顔を守るための小さな工夫を重ねています。
この記事では、私が日々の保育の中で感じている“夏の見守りの知恵”を、実際のエピソードを交えながらお伝えします。
朝の登園から始まる「体調チェック」
朝の玄関で「おはようございます!」と声をかけながら迎える時間。
実は、ここが保育士にとって一日の中で最も大切な観察の瞬間です。
ある夏の日、Aくんが少しうつむき加減で登園しました。
「おはよう」と声をかけても、目が合わない。
お母さんに話を聞くと、「昨夜、なかなか寝つけなくて…」とのこと。
私はその日、無理に外で遊ばせず、絵本を読んだりブロックで静かに過ごすようにしました。
昼ごろにはAくんの表情がやわらぎ、「先生、これ見て!」と積み上げたブロックを見せてくれました。
その小さな笑顔に、“ゆっくり見守ること”の大切さを改めて感じます。
朝の「顔色」「歩き方」「声のトーン」には、体調だけでなく心の状態も表れます。
特に夏場は、汗のかき方や顔の赤み、手足の冷たさなどを通して、子どもの体の声を読み取ることが保育士の役割の一つです。
水分補給は「こまめに」「楽しく」
「喉が渇いた」と言えるようになるのは、意外と難しいことです。
子どもたちは遊びに夢中になると、自分の体のサインを後回しにしてしまいます。
だからこそ、保育園では“遊びの中で水分をとる”というスタイルを大切にしています。
例えば、「ジュース屋さんごっこ」。
小さなコップに麦茶を入れ、氷をカラカラと鳴らして「先生、冷たいジュースどうぞ!」。
こんな遊びを取り入れると、子どもたちは笑顔で何度も飲みます。
1〜2歳児のクラスでは、保育士が一緒に「かんぱい!」と声をかけることで、
飲む楽しさと安心感を同時に育てることができます。
一方で3〜5歳児クラスでは、「自分で飲むタイミングを考える」練習にもなります。
夏の水分補給は“義務”ではなく、“習慣と関わり”の積み重ね。
「飲もうね」ではなく「お茶タイムにしようか」と声をかけることで、
子どもたちの自然なリズムの中に水分補給を組み込めます。
遊びの中で見えてくる「体のサイン」
夏の園庭は、子どもたちの成長が一番見える場所。
すべり台のてっぺんで笑う子、水たまりに夢中になる子、砂場で山を作る子…。
その中で、保育士は常に体と心のサインを探しています。
ある日、Bちゃんがいつもより静かでした。
砂場で遊んでいたけれど、何となく動きがゆっくり。
そっと肩に手を置いて「どうしたの?」と声をかけると、
「ちょっと疲れた」と小さな声。
一緒に日陰に行き、お茶を飲んでいるうちに少しずつ笑顔が戻りました。
子どもたちは、自分の不調を言葉で伝えることがまだ難しい年齢です。
だからこそ、表情・しぐさ・遊び方の“変化”を見逃さないようにしています。
そうした一瞬の気づきが、安心と信頼を生み出します。
室内でも“夏らしさ”を感じられる工夫
気温が高くなると、無理をせず室内で過ごす時間が増えます。
でも「ただ涼しく過ごす」だけでは、子どもたちの好奇心は満たされません。
そこで園では、室内でも“夏の体験”を感じられる遊びを工夫しています。
透明カップに青い寒天を入れて「海ごっこ」
カップの中に貝殻やビーズを入れて「冷たい海を作ろう!」
うちわにシールを貼って「風を作る遊び」
窓辺でカーテンを揺らしながら「風って気持ちいいね」と話す。
こうした小さな活動の中で、子どもたちは五感を使って季節を感じます。
また、製作を通して「できた!」という自信や達成感も育ちます。
室内でも、子どもたちが笑顔で季節を味わえる時間。
それは“心の体温”を育てる大切な時間です。
保護者とつなぐ「見守りのバトン」
夕方、玄関でお迎えに来た保護者の方と交わす一言。
それが、子どもたちの一日をつなぐ“バトン”のような役割を持っています。
「今日はお砂場でたくさん遊びました」
「汗をかいたけれど、しっかりお茶を飲めましたよ」
そんな短い報告が、保護者に安心を届けます。
また、朝の「少し食欲がなくて…」という一言が、園での対応のヒントになることもあります。
園と家庭は、どちらかが主ではなくチーム。
お互いの信頼があるからこそ、子どもたちは安心して笑顔で過ごせます。
保育士として感じるのは、
「ありがとう」と言葉を交わすだけで、親と園の距離がぐっと近づくということ。
見守りとは、体だけでなく心をつなぐ行為でもあるのです。
夏の終わりに感じる「子どもたちの成長」
8月の終わりごろ、汗びっしょりで遊んでいた子どもたちが、
少しずつ“自分の体”を気づかうようになります。
「先生、あついからお茶飲むね」
「もうすぐお昼寝? ねむい〜」
そんな言葉が聞けるようになるのは、夏の見守りの成果でもあります。
季節の変化を通して、子どもたちは“自分を大切にする力”を育てています。
保育士はその成長を見守りながら、そっと背中を押してあげる存在。
夏の保育には、「命を守ること」と「生きる力を育てること」の両方が詰まっています。
まとめ|「注意」より「寄り添い」で守る夏
夏の保育で一番大切なのは、“完璧な対策”よりも“温かいまなざし”。
子どもの笑顔、汗の量、声のトーン――それらを感じ取りながら、
大人が安心して見守ることで、子どもも自然に安全を学びます。
保育園の夏は、小さな挑戦と発見の連続。
その中で生まれる「できた!」「がんばった!」の気持ちこそ、何よりの宝物です。
保育士として、そして親として。
私たちができるのは「大丈夫、一緒にいるよ」と寄り添うこと。
その優しさが、子どもたちの心を支え、笑顔の夏をつくっていくのです。
・・・今日も一日ちはるびより