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「なんでもイヤ!」「自分でやる!」——。1歳半を過ぎたころから始まる“イヤイヤ期”。毎日の生活がまるで試練のように感じられる時期ですが、実はこれは子どもが「自分の世界」を広げるために通る大切なステップでもあります。
保育園でも、多くの保護者が「うちの子、最近なんでもイヤって言うんです」と相談されますが、イヤイヤ期は一人ひとりにとって意味のある“成長の証”。
この記事では、保育士として現場で感じるイヤイヤ期の実態と、家庭でできる上手な関わり方を丁寧にお伝えします。
イヤイヤ期はいつからいつまで?平均的な期間と特徴
イヤイヤ期は一般的に1歳半〜3歳ごろに始まり、長い場合は4歳前後まで続きます。早い子では1歳3か月頃から「イヤ」が出始め、遅い子では2歳半頃にピークがくることもあります。
発達のスピードや性格、家庭環境によっても差があり、「早い・遅い」はあっても“正解”はありません。
この時期の子どもは「やってみたい」「でもうまくできない」という葛藤の中にいます。自我が育ち始め、自分の意思を伝えたいという気持ちが強くなる一方で、思い通りにいかない現実にイライラするのです。
言葉の発達が追いつかず、感情をうまく表現できないために「イヤ!」という言葉が万能な拒否表現として使われます。
たとえば、ズボンをはかせようとすると「イヤ!」、お風呂も「イヤ!」。でも実際には「自分でやりたい」「タイミングを決めたい」といった主体性の芽生えが背景にあります。イヤイヤは“わがまま”ではなく、“自立への入り口”なのです。
イヤイヤ期の「ピーク」と「落ち着く時期」
多くの子どもが2歳〜2歳半でイヤイヤのピークを迎えます。自己主張の強さと、まだ未熟な感情コントロールの狭間で爆発的に「イヤ!」が増える時期です。
しかし3歳を過ぎると少しずつ言葉で気持ちを伝えられるようになり、親子のやり取りも穏やかになっていきます。
ただし、完全に“イヤイヤ”がなくなるわけではありません。5歳頃でも、眠いとき・疲れたとき・気持ちを言葉で整理できないときには「イヤ」が再発することも。これは決して後戻りではなく、感情の成熟過程における自然な揺らぎです。
なぜイヤイヤが起こるの?保育士が見た“心の発達”の背景
イヤイヤ期の子どもたちは、一見わがままに見えても、実は「自分の存在を確認する」ために行動しています。たとえば、保育園で「先生がやって」と言ったのに、次の日には「じぶんでやる!」と泣いて拒否する。これは「昨日と同じことでも、今日は違う自分で挑戦したい」という気持ちの表れです。
保育士の立場から見ると、イヤイヤ期はまさに「自我の芽吹き」。まだうまく伝えられない気持ちを身体や表情で表現しているのです。その背景には以下のような発達の変化があります。
- 言葉の理解が進むが、表現が追いつかない
- 模倣行動(真似っこ)が増えることで“できる気持ち”が高まる
- 感情のコントロール力が未発達で、気分の波が大きい
つまり「イヤイヤ」は、脳の発達と心の成長が一気に進む時期だからこそ起こる自然な現象です。
保育士として感じるのは、「イヤイヤ」を通じて子どもが「こうしたら伝わる」「これは違う」と学んでいるということ。行動の一つひとつが、社会性の第一歩につながっています。
家庭でできるイヤイヤ期の上手な乗り越え方
保育園でも、イヤイヤ期の子どもたちは日常的にいます。大切なのは「どう関わるか」。家庭でも次の3つのポイントを意識することで、親も子も少し楽になります。
1. 「選ばせる」ことで自信を育てる
子どもは「自分で決めたい」という気持ちを強く持っています。「赤い靴と青い靴、どっちがいい?」といったように、あらかじめ大人が選択肢を絞って提示することで、子どもは「自分で選んだ」と感じ、自信を持つことができます。
保育園でも「今日はおままごととブロック、どっちからする?」と声をかけることで、子どもたちは自然と落ち着き、自分のペースをつかみやすくなります。選択肢を与えることは、コントロールを奪うのではなく、安心できる範囲で自由を持たせる工夫です。
2. 「共感の言葉」で気持ちを受け止める
「イヤなんだね」「悲しかったね」と共感の言葉をかけるだけで、子どもの表情がスッと変わることがあります。
否定ではなく“理解してもらえた”と感じることが、心の安心につながります。大人が落ち着いた声で気持ちを言葉にしてあげると、子どもも少しずつ自分で気持ちを整理できるようになります。
保育現場でも、まずは「そうしたかったんだね」と気持ちを代弁し、そのあとに「どうしたらいいかな?」と一緒に考えるようにしています。大人が解決を急がず、共感を挟むことで、子どもは“聞いてもらえた”という満足感を得ます。
3. 「できた!」をたくさん一緒に喜ぶ
イヤイヤ期の子どもは「できた!」という成功体験によって、少しずつ「イヤ」が減っていきます。たとえボタンを1つ留めただけでも、「すごいね!自分でできたね!」と喜んであげましょう。
失敗しても「やってみたね」「もう一回やろうか」と肯定的に声をかけることが、次のチャレンジへの意欲につながります。
保育士の現場でも、「失敗」ではなく「挑戦」として受け止めることを意識しています。子どもの小さな「やりたい」を見逃さないことで、自己肯定感が少しずつ積み上がっていきます。
保育士が感じる“成長のサイン”とは
イヤイヤ期の行動の裏には、たくさんの“成長の芽”があります。保育士として日々子どもたちを見ていると、「イヤ!」の中にも確かな成長が見えてきます。
- お友だちの真似をして新しいことに挑戦するようになった
- 「じぶんで」「あとで」など、意思表示が増えた
- 泣いても立ち直りが早くなり、気持ちを切り替えられるようになった
- 先生や友だちの気持ちに気づいて、譲る姿が見られるようになった
- 「ありがとう」「どうぞ」など、相手を意識した言葉が増えてきた
こうした小さな変化こそが、心の成長の証です。大人が「困った行動」ととらえる出来事も、子どもにとっては自立への練習。強く否定せず、「今は育ちの途中なんだ」と視点を変えるだけで、関わりがずっと楽になります。
園と家庭で連携すると、イヤイヤ期はもっと穏やかに
保育園では、家庭での様子を共有してもらうことをとても大切にしています。
「朝、服を着るのを嫌がりました」「昨日はごはんを食べなかった」などの一言でも、園での関わり方を調整する手がかりになります。
逆に、園での“できた瞬間”をお伝えすると、保護者の方の安心にもつながります。
イヤイヤ期は、親だけで抱え込まず、園と家庭が一緒に見守ることが大切です。子どもにとっても、「どちらの場所でも自分を認めてもらえている」という安心が、次のステップへのエネルギーになります。
親も一緒に育つ時間——焦らず、比べず、寄り添うこと
イヤイヤ期の一番のポイントは「親も一緒に成長する時間」と捉えることです。
保育士として感じるのは、イヤイヤ期を通して親子の信頼関係が深まるということ。大人が“我慢する時期”ではなく、“心を育てる時期”として向き合うと、子どもの安心感がぐんと増します。
もちろん、毎日がうまくいくわけではありません。忙しい朝に「イヤイヤ」が続けば、誰だって疲れてしまいます。
そんなときは、一歩引いて「今日はそういう日なんだな」と受け止め、できることを少し減らしてみましょう。お互いに無理をしないことも、立派な子育ての選択です。
もし気持ちが限界になったときは、遠慮なく相談してください。地域の子育て支援センター、保健センター、保育園の保育士など、身近な専門職が力になります。(→地域子育て支援センターの情報はこちら)
まとめ:イヤイヤ期は「自立の扉を開く時間」
イヤイヤ期はいつか必ず終わります。その日が来たとき、親子の間には「乗り越えたね」という小さな絆が生まれています。 子どもの「イヤ!」の裏には、「自分でやりたい」「できるようになりたい」という前向きな気持ちが隠れています。
焦らず、比べず、見守りながら——。イヤイヤ期を親子で一緒に歩む時間こそ、心が育つ大切な瞬間です。今日の“イヤイヤ”も、未来につながる大事な一歩です。
・・・今日も一日ちはるびより
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