子どもがお友だちのおもちゃを取ってしまった。
押してしまった。
嫌なことを言ってしまった。
そんなとき、つい、
「自分がされたらどう思う?」
と聞いてしまうことはありませんか。
「相手の気持ちに気づいてほしい」
「思いやりのある子になってほしい」
そんな思いから出る言葉ですよね。
でも、小さな子どもに聞いてみると、
「別にイヤじゃない」
「わからない」
と返ってきたり、黙ってしまったりすることがあります。
すると、
「どうして分からないの?」
「相手の気持ちが分からない子なのかな」
と心配になってしまうこともあるかもしれません。
でも、それだけで思いやりがないと考える必要はありません。
幼い子どもは、自分の気持ちと相手の気持ちが違うことを、日々の経験の中で少しずつ学んでいる途中です。
「自分がされたらどう思う?」という言葉が悪いわけではありません。
ただ、年齢やそのときの気持ちによっては、もっと分かりやすく響く言葉があります。
この記事では、保育園で子どもたちと関わる中で感じてきた、相手の気持ちに気づくための声かけについてお伝えします。

「自分がされたらどう思う?」と言いたくなる理由
保護者や保育士がこの言葉を使うのは、子どもを責めたいからではありません。
「相手の痛みが分かる子になってほしい」
「同じことを繰り返してほしくない」
「優しい子になってほしい」
という願いがあるからです。
たとえば、子どもがお友だちのおもちゃを取ったとき、
「あなたも取られたら嫌でしょう?」
と伝えれば、相手の気持ちに気づいてくれそうに思います。
でも、小さな子どもにとっては、この質問に答えるために、
自分の今の気持ちから少し離れる。
相手の立場を想像する。
自分が同じことをされた場面を想像する。
そのときの感情を言葉にする。
と、いくつものことを考えなければなりません。
大人には簡単に思えても、子どもにとっては難しいことがあるのです。
「別にイヤじゃない」と答える子もいます
保育園でも似たような場面があります。
お友だちが遊んでいたおもちゃを取ってしまった子に、
「自分が取られたらどう思う?」
と聞いたとします。
すると、
「いいよ」
「別にイヤじゃない」
と答えることがあります。
大人からすると、
「そういうことじゃないんだけど……」
と思ってしまいますよね。
でも、子どもは大人を困らせようとしているとは限りません。
本当にその瞬間は「自分なら平気」と思っているのかもしれません。
質問の意味がまだ十分に理解できていないこともあります。
そんなとき、
「本当は嫌でしょう?」
「嫌って言いなさい」
と大人が答えを決めてしまうと、相手の気持ちを考えることよりも、
「大人が言ってほしい答えは何だろう」
というやりとりになってしまいます。
大切なのは、正解を言わせることではありません。
まず「何が起きたのか」を短く伝える
子ども同士のトラブルが起きたとき、まずは何が起こったのかを短く伝えてみます。
おもちゃを取ってしまったなら、
「○○ちゃんが遊んでいた車を取ったんだね」
押してしまったなら、
「今、○○ちゃんを押したね」
という具合です。
ここで、
「意地悪したね」
「悪いことしたでしょう」
と決めつけなくても大丈夫です。
まず出来事そのものを一緒に確認します。
子どもが興奮しているときは、長い説明をしてもなかなか耳に入りません。
危ない行動を止め、少し落ち着いてから話す方が伝わることもあります。
「相手の気持ち」は大人が言葉にしてもいい
「自分がされたらどう思う?」
と子ども自身に答えを探させる代わりに、まず目の前の相手の様子を伝えてみます。
お友だちが泣いていたら、
「○○ちゃん、びっくりして泣いているね」
おもちゃを取られて困っていたら、
「まだ使いたかったみたいだね」
押されて怒っていたら、
「急に押されて嫌だったみたいだよ」
といった言葉です。
すると子どもは、
「泣いている」
「困っている」
「嫌だった」
という相手の姿と、その場で起きたことを結びつけやすくなります。

「どんな気持ち?」より「どんな顔してる?」
少し落ち着いてきたら、
「○○ちゃん、どんな顔してる?」
と聞いてみるのも一つの方法です。
子どもが、
「泣いてる」
「怒ってる」
と答えたら、
「そうだね。まだ遊びたかったのかもしれないね」
と一緒に考えます。
最初から、
「悲しいでしょう?」
と正解を求める必要はありません。
相手を見る。
表情を見る。
出来事と気持ちを結びつける。
そんな経験を重ねていくことが大切です。
その前に、子ども自身の気持ちも受け止める
相手の気持ちを伝える前に、行動した子どもの気持ちも言葉にしてみます。
おもちゃを取った子なら、
「その車で遊びたかったんだね」
押してしまった子なら、
「先に行きたかったんだね」
「嫌って言いたかったんだね」
と伝えます。
ここで大切なのは、
気持ちを受け止めることと、その行動を何でも認めることは別
ということです。
「欲しかったんだね。でも、取るとまだ遊んでいたお友だちは困るね」
「嫌だったんだね。でも、押すと危ないよ」
と伝えることができます。
自分の気持ちを分かってもらえたことで、少し落ち着き、相手の気持ちにも目を向けられることがあります。
「ダメ」で終わらず、次にどうしたらいいか伝える
子どもにとって分かりやすいのは、
「では次はどうするのか」
まで具体的に伝えることです。
おもちゃが欲しいなら、
「貸してって言ってみようか」
まだ使っているなら、
「終わったら貸してねって言おう」
嫌なことをされたら、
「やめてって言っていいんだよ」
ぶつかってしまったら、
「大丈夫?って聞いてみようか」
と伝えます。
「人の気持ちを考えなさい」
という言葉だけでは、子どもは次に何をすればよいのか分からないことがあります。
「貸してと言う」
「待つ」
「やめてと言う」
「大丈夫?と聞く」
という具体的な行動を一緒に知っていくことが大切です。
「ごめんなさい」を言わせれば終わりではありません
トラブルが起きると、
「ちゃんとごめんなさいは?」
と言いたくなることもあります。
もちろん、謝ることは大切です。
でも、何が起きたのか理解しないまま、
「ごめんなさい」
だけを言って終わることもあります。
そんなときは、
何があったのか。
相手は今どうしているのか。
次はどうしたらいいのか。
を一緒に見ていきます。
そのあと、
「どうしようか」
と聞いてみると、子どもから「ごめんね」が出ることもあります。
まだ言葉にならなければ、大人と一緒におもちゃを返したり、相手のそばへ行ったりすることも一つの経験です。
言葉だけではなく、相手との関係をどう戻していくかを知っていくことの方が大切だと思います。
年齢によって伝わりやすい言葉は違います
1~2歳ごろ
1~2歳くらいでは、
「自分がされたらどう思う?」
と想像させるより、
「まだ使ってたよ」
「びっくりしたね」
「順番にしようね」
など、短く具体的な言葉の方が伝わりやすいことがあります。
この時期は、自分の「ほしい」「やりたい」という気持ちもとても強い時期です。
相手への思いやりを教え込もうとするより、まず大人が気持ちを言葉にして見せていけば十分です。
3歳ごろ
3歳ごろになると、
「○○ちゃん、どんな顔してる?」
「まだ使いたかったみたいだね」
といったやりとりができる場面も増えてきます。
ただし、自分自身が怒っていたり悔しかったりするときは、相手のことを考える余裕がないこともあります。
まず気持ちが落ち着いてから話すことを大切にしましょう。
4~5歳ごろ
少しずつ、
「○○ちゃんはどう思ったかな」
「次はどうしたらいいと思う?」
と一緒に考えられる場面が増えてきます。
それでも毎回うまく考えられるわけではありません。
できたり、できなかったり。
気づいたり、気づけなかったり。
そうした経験を繰り返しながら育っていきます。

保育園では「その場で見えたこと」を言葉にします
保育園では、子ども同士の小さなトラブルは珍しいことではありません。
おもちゃの取り合い。
「入れて」「ダメ」。
順番。
場所の取り合い。
思うようにならなくて押してしまうこともあります。
でも、それは「悪い子だから」ではありません。
人と一緒に過ごす方法を学んでいる途中だからです。
そんな場面では、
「どっちが悪い?」
とすぐ決めるよりも、
「何があったのかな」
と、それぞれの気持ちを見ていきます。
「使いたかったんだね」
「まだ貸したくなかったんだね」
「急に取られて悲しかったんだね」
「二人ともこれで遊びたかったんだね」
と、それぞれの気持ちを言葉にします。
すると同じ一つのおもちゃをめぐる出来事にも、
「欲しい気持ち」
と
「まだ使いたい気持ち」
の両方があることが見えてきます。
こうした経験を繰り返しながら、子どもは少しずつ、
「自分とは違う気持ちもあるんだ」
と知っていきます。
思いやりは「正解を言えること」ではありません
「自分がされたらどう思う?」
と聞いたときに、
「悲しい」
と答えられたから思いやりがある。
答えられなかったから思いやりがない。
そんな単純なものではありません。
泣いている友だちのそばへ行く。
転んだ子をじっと見ている。
先生に、
「○○ちゃん泣いてるよ」
と知らせる。
おもちゃをそっと差し出す。
言葉では説明できなくても、子どもなりに相手を気にしている姿はたくさんあります。
そんな姿を見つけたら、
「○○ちゃんのこと、心配だったんだね」
「貸してあげたんだね」
と大人が言葉にしてあげるのもよいでしょう。
家庭でもできる「相手の気持ち」に気づく練習
特別なトレーニングをする必要はありません。
日常生活の中に、相手の気持ちに気づく機会はたくさんあります。
絵本を読んでいるとき、
「この子、どんな顔してる?」
「うれしそうだね」
と話してみる。
テレビやアニメを見ながら、
「困ってるみたいだね」
と話す。
家族が疲れているときには、
「今日はちょっと疲れてるみたいだね」
と伝える。
そして何より、子ども自身が泣いたときには、
「悲しかったね」
怒ったときには、
「嫌だったんだね」
と受け止めてもらう。
自分の気持ちを大切にしてもらう経験も、ほかの人の気持ちを知っていく土台になります。
こんなふうに言い換えてみませんか?
子どもがお友だちに嫌なことをしてしまったとき、
「自分がされたらどう思う?」
だけで終わらせず、
「○○ちゃん、びっくりしているね」
「まだ遊びたかったみたいだよ」
「あなたもこれで遊びたかったんだね」
「次はどうしたら二人で使えるかな?」
と、一段ずつ整理してみます。
最初は大人が言葉にしてあげて構いません。
少しずつ子ども自身が気づけるようになっていけばよいのです。
「自分がされたらどう思う?」も使ってはいけない言葉ではありません
ここまで読むと、
「では、『自分がされたらどう思う?』は言ってはいけないの?」
と思われるかもしれません。
そんなことはありません。
子どもが落ち着いていて、少しずつ相手の立場を想像できるようになってきたら、
「もし自分だったらどうかな?」
と一緒に考えることもできます。
大切なのは、
その一言だけで相手の気持ちを理解させようとしないこと
です。
答えられなくても大丈夫です。
「分からないんだね」
と受け止めてから、
「先生には、○○ちゃんは悲しそうに見えるよ」
と伝えてもいいのです。
子どもは、一度言われただけで思いやりを身につけるわけではありません。
毎日の小さなやりとりの中で、少しずつ人の気持ちに気づいていきます。

まとめ|「考えなさい」より一緒に気持ちを見つけよう
子ども同士のトラブルを見ると、
「人の気持ちを分かってほしい」
「優しい子になってほしい」
と思いますよね。
そんなときの、
「自分がされたらどう思う?」
という言葉が間違いなのではありません。
ただ、小さな子どもには少し難しい場合があります。
そんなときは、
「○○ちゃん、泣いているね」
「まだ使いたかったみたいだよ」
「あなたも欲しかったんだね」
「次はどうしようか」
と、目の前で起きていることを一緒に見てみましょう。
自分の気持ちを理解してもらう。
相手にも気持ちがあることを知る。
次に使える言葉を覚える。
その積み重ねが、少しずつ思いやりにつながっていきます。
「正しい答えを言わせる」より、
「一緒に気持ちを見つける」
保育園でも家庭でも、そんな関わりを大切にしていきたいですね。
・・・今日も一日ちはるびより
