「はみがきしようね」
そう声をかけた途端、子どもが逃げ出してしまう。
歯ブラシを見せるだけで口をぎゅっと閉じたり、泣きながら嫌がったり……。
毎晩の歯みがきが、親子の格闘になっていませんか。
「虫歯になったら困るから、ちゃんと磨いてあげたい」
そう思う一方で、泣いている子どもを相手に仕上げ磨きをするのは、お母さんやお父さんにとっても大変なことですよね。
保育園でも、手洗いや着替え、お片付けなど、子どもたちが「イヤ!」と言う場面はたくさんあります。
そんなとき、保育士が大切にしているのは、子どもの気持ちを受け止めながら、「ちょっとやってみようかな」という気持ちにつなげることです。
歯みがきも、少し関わり方を変えるだけで、子どもの反応が変わることがあります。
もちろん、歯みがきは虫歯を予防する大切な習慣です。嫌がるからといって、磨かなくてもよいわけではありません。
でも、毎晩親子で疲れ果ててしまうより、楽しく続けられる方法を見つけたいですね。
この記事では、1歳・2歳・3歳の子どもが歯みがきを嫌がる理由と、家庭で今日から試せる7つの工夫を、保育士の目線からお伝えします。

子どもが歯みがきを嫌がるのはなぜ?
歯みがきを嫌がる理由は、子どもによってさまざまです。
ただのわがままと考える前に、どんな気持ちが隠れているのか、少し考えてみましょう。
口の中を触られるのが苦手
口の中は、とても敏感な場所です。
歯ブラシが歯ぐきに当たったり、唇を引っ張られたりすることを、不快に感じる子もいます。
特に、上の前歯と唇をつなぐ筋の部分に歯ブラシが強く当たると、痛みを感じることがあります。
以前、歯みがきで痛い思いをした経験があると、歯ブラシを見るだけで嫌がることもあるのです。
自分でやりたい気持ちが育っている
2歳ごろになると、何でも「自分で!」という気持ちが強くなります。
ご飯も自分で食べたい。
靴も自分で履きたい。
歯ブラシだって自分で持ちたい。
ところが、大人が仕上げ磨きをしようとすると、急に嫌がることがあります。
歯みがきそのものよりも、「自分でやりたかった」という気持ちが強いのかもしれません。
遊びを途中でやめたくない
おもちゃで夢中になって遊んでいるときに、
「はい、歯みがきするよ」
と言われても、すぐに気持ちを切り替えられない子もいます。
これは保育園でもよく見られる姿です。
楽しい遊びを急に終わらせるのは、小さな子どもにとって簡単なことではありません。
眠くて機嫌が悪くなっている
夜の歯みがきは、一日の疲れが出やすい時間でもあります。
夕食を食べて、お風呂に入って、そろそろ眠くなるころ。
そんなときに歯みがきを始めると、普段なら平気なことでも嫌がる場合があります。
「はみがきイヤ!」という言葉の裏に、「眠いよ」「もう疲れたよ」という気持ちが隠れていることもあります。
保育士も実践する「はみがきイヤ!」への7つの工夫
歯みがきを嫌がる子どもに、毎回同じ声かけをしていても、なかなかうまくいかないことがあります。
そんなときは、保育園でも大切にしている「遊び」「選択」「見通し」「小さな成功体験」を家庭に取り入れてみましょう。
① 歯みがきを楽しい遊びに変えてみる
保育園では、子どもに何かをしてほしいとき、遊びの要素を取り入れることがあります。
「お片付けしてね」
と言っても動かなかった子が、
「おもちゃさん、おうちに帰りたいんだって」
と声をかけると、楽しそうに片付け始めることがあります。
歯みがきでも、同じような工夫ができます。
例えば、
「お口の中にバイキンさんが隠れているかな?」
「歯ブラシさん、探検に行きますよ!」
「前の歯さん、こんにちは!」
といった言葉です。
「磨かなきゃいけない時間」を、「ちょっと楽しい時間」に変えてみるのです。
ただし、虫歯菌を怖いおばけのように話して、子どもを脅かす必要はありません。
楽しい気持ちで取り組めることを大切にしたいですね。
② 歯ブラシを自分で選んでもらう
子どもは、自分で決めたことには前向きになれることがあります。
年齢に合った歯ブラシを2本用意して、
「今日は赤と青、どっちの歯ブラシにする?」
と聞いてみましょう。
たったそれだけでも、「自分で選んだ」という満足感が生まれます。
ただし、子どもが自分で使う歯ブラシは、喉突き防止に配慮されたものを選びましょう。
歯ブラシをくわえたまま歩き回ることは危険です。必ず大人がそばで見守り、座った状態で使うことが大切です。
仕上げ磨き用の歯ブラシとは分けて用意するとよいでしょう。
③ ぬいぐるみと一緒に歯みがきする
小さな子どもは、まねっこが大好きです。
お気に入りのくまのぬいぐるみを連れてきて、
「くまちゃんも歯みがきするんだって」
「くまちゃんのお口、ピカピカにしてあげようか」
と声をかけてみます。
子どもがくまちゃんのお世話をする役になると、歯ブラシへの興味が生まれることがあります。
「くまちゃん、きれいになったね」
「次は○○ちゃんの番だね」
と自然につなげられるといいですね。
ぬいぐるみ用の歯ブラシは、実際に口に入れるものとは別にしておきましょう。

④ 歯みがきの歌を決めてみる
保育園では、歌を使って生活の切り替えをすることがあります。
お片付けの歌が聞こえると、おもちゃを片付け始める子。
帰りの歌が聞こえると、お迎えの時間が近いことに気づく子。
毎日繰り返すことで、「次は何をするのかな」が分かるようになっていきます。
家庭でも、歯みがきのときに決まった歌を歌ったり、流したりしてみてください。
「この歌を歌いながら、歯をピカピカにしようね」
と声をかけるのもよいでしょう。
ただし、歌の長さだけで磨く時間を決めるのではなく、必要なところを丁寧に磨くことも忘れないようにしましょう。
⑤ 「あとで歯みがきするよ」と予告する
遊んでいる子どもに突然、
「歯みがきするよ!」
と言うよりも、少し前に知らせておく方が気持ちを切り替えやすい場合があります。
「この絵本を読んだら歯みがきしようね」
「この車を駐車場に入れたら、お口をきれいにしようか」
と伝えてみましょう。
小さな子どもは、急に行動を変えることが苦手な場合があります。
先に予定を伝えるだけでも、安心につながることがあります。
遊びから生活習慣へ切り替えるときの工夫については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
⑥ 「自分で磨く時間」と「仕上げ磨き」を分ける
「自分で!」という気持ちが強い子には、最初に自分で歯ブラシを持たせてみましょう。
「最初は○○ちゃんが磨いてね」
「次はママが仕上げをするよ」
と順番を伝えます。
自分で磨く時間を認めてもらえると、仕上げ磨きも受け入れやすくなる場合があります。
ただし、小さな子どもが自分だけで十分に歯を磨くことは難しいため、保護者による仕上げ磨きが必要です。
「自分でできた」という喜びと、歯を清潔に保つことの両方を大切にしたいですね。
⑦ 歯みがきの時間を少し早めてみる
毎晩、眠くなってから歯みがきをしている場合は、時間を見直してみるのもよいでしょう。
夕食後、まだ機嫌よく過ごしている時間に磨くと、嫌がり方が変わることがあります。
歯みがきは、就寝前を含めて1日2回行うことが推奨されています。
夕食後に磨いた場合は、そのあと甘い飲み物やお菓子を取らないようにして、きれいな状態で眠れるようにしましょう。
1歳・2歳・3歳では歯みがきの関わり方も違います
歯みがきへの反応は、子どもの年齢や発達、性格によって違います。
年齢だけで決めつけることはできませんが、それぞれの時期に合った関わり方を考えてみましょう。
1歳ごろ|まずは歯ブラシに慣れることから
1歳ごろは、まだ歯みがきの必要性を理解することが難しい年齢です。
歯ブラシを見て逃げる。
口を開けない。
歯ブラシをかんでしまう。
そんな姿も見られます。
まずは、機嫌のよいときに歯ブラシを見せたり、口元に優しく触れたりしながら、少しずつ慣れていきましょう。
大人が笑顔で話しかけながら磨くことも大切です。
どうしても嫌がる場合は、歯科で相談しながら、無理のない清掃方法を考えていきましょう。
2歳ごろ|「自分で!」を大切に
2歳ごろは、自分でやりたい気持ちが強くなる時期です。
歯みがきでも、
「ママがやる!」
と言うと嫌がるのに、
「先に自分でやってみる?」
と聞くと喜ぶことがあります。
この時期は、子どもの自主性を大切にしながら、保護者が必要な仕上げ磨きを行うことが大切です。
「自分でやりたい」という気持ちの受け止め方については、こちらの記事も参考になります。
3歳ごろ|歯みがきの意味を少しずつ伝える
3歳ごろになると、簡単な説明を理解できる子も増えてきます。
「歯をきれいにすると、おいしくご飯が食べられるね」
「お口の中をピカピカにして寝ようね」
といった短い言葉で、歯みがきの意味を伝えてみましょう。
鏡で自分の歯を見たり、歯みがきの絵本を読んだりするのもよいですね。
難しい説明よりも、子どもが「やってみたい」と思える関わりを大切にしましょう。

仕上げ磨きを嫌がるときに見直したいこと
自分で歯ブラシを持つのは好きなのに、仕上げ磨きになると急に嫌がる子もいます。
そんなときは、歯ブラシの当て方や姿勢を確認してみましょう。
歯ブラシを強く当てすぎていませんか?
早く終わらせようとして、無意識に力が入ってしまうことがあります。
歯ブラシは軽い力で、小さく動かすのが基本です。
特に上の前歯を磨くときは、唇の裏側にある筋の部分に歯ブラシが強く当たらないよう注意しましょう。
この部分が痛くて、仕上げ磨きを嫌がる子もいます。
膝の上に頭をのせて磨く
仕上げ磨きでは、保護者の膝の上に子どもの頭をのせる姿勢がよく使われます。
この姿勢は口の中が見えやすく、歯ブラシを動かしやすい方法です。
歯ブラシを入れるときは、子どもが急に動いて口の中を傷つけないよう、頭を安定させながら優しく磨きましょう。
嫌がって大きく暴れる場合には、けがをしないよう一度中断し、落ち着ける方法を考えることも必要です。
仕上げ磨き用の歯ブラシを用意する
子どもが自分で使う歯ブラシと、保護者が仕上げ磨きに使う歯ブラシは、分けて用意するとよいでしょう。
仕上げ磨き用は、ヘッドが小さく、大人が持ちやすい柄のものが使いやすいです。
毛先が広がった歯ブラシは、汚れを落としにくくなることもあるため、状態を確認して交換しましょう。
フッ素入り歯みがき粉はいつから使う?
「まだうがいができないけれど、歯みがき粉は使っていいの?」
そんな疑問を持つ保護者の方もいるでしょう。
日本小児歯科学会など4学会の推奨では、乳歯が生え始めた時期から、年齢に応じた量のフッ化物配合歯みがき剤を使用することが勧められています。
年齢ごとの使用量の目安
| 年齢 | フッ化物濃度 | 使用量 |
|---|---|---|
| 歯が生えてから2歳 | 900~1,000ppmF | 米粒程度(1~2mm) |
| 3~5歳 | 900~1,000ppmF | グリーンピース程度(約5mm) |
歯が生えてから2歳までは、歯みがき後にティッシュなどで歯みがき粉を軽く拭き取っても構いません。
3~5歳では、歯みがき後に軽く吐き出し、うがいをする場合は少量の水で1回だけにします。
歯みがき粉は保護者が適量を出し、子どもの手の届かない場所に保管しましょう。
製品によってフッ化物濃度や対象年齢が異なるため、購入するときは表示を確認してください。
参考:4学会合同のフッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法(2023 年 1 月)
どんなに工夫しても歯みがきを嫌がるときは?
ここまで紹介した方法を試しても、なかなかうまくいかないことがあります。
大人が優しく声をかけても、子どもが泣いてしまう。
歯ブラシを見せるだけで逃げてしまう。
そんな日もあるでしょう。
うまくいかない日があっても、習慣をあきらめない
一度うまく磨けなかったからといって、今までの努力がなくなるわけではありません。
ただし、歯みがきができない日が続くと、虫歯のリスクが高くなります。
泣いて嫌がる状態が続く場合は、無理に押さえつけて続けるのではなく、小児歯科で相談してみてください。
歯科医師や歯科衛生士から、子どもに合った姿勢や磨き方を教えてもらうことができます。
口の中に痛みや出血がある場合にも、単なる歯みがき嫌いと決めつけず、確認してもらいましょう。
「できた!」を小さなことから見つける
保育園では、子どもの小さな成長を大切にしています。
昨日はできなかったことが、今日は少しできた。
それだけでも、うれしいものです。
歯みがきでも同じです。
昨日は歯ブラシを見るだけで嫌がっていた子が、今日は自分で持てた。
昨日は口を開けなかった子が、今日は少し開けてくれた。
昨日は泣いてしまった子が、今日は落ち着いて座れた。
「できたね」
「お口を開けてくれてありがとう」
そんな小さな言葉を積み重ねていきたいですね。
ただし、褒めることと、必要な歯みがきを省くことは別です。
子どもの気持ちを大切にしながら、歯を健康に保つ方法を一緒に考えていきましょう。

まとめ|「はみがきイヤ!」も成長の途中。親子で少しずつ慣れていこう
小さな子どもが歯みがきを嫌がるのは、必ずしもわがままだからではありません。
口の中を触られるのが苦手だったり、自分でやりたかったり、遊びをやめたくなかったり。
その子なりの理由があることも多いのです。
そんなときは、無理に言い聞かせるだけでなく、
遊びを取り入れる。
自分で選んでもらう。
歌を歌う。
お気に入りのぬいぐるみと一緒に磨く。
時間や姿勢を工夫する。
といった方法を試してみてください。
毎日の歯みがきは、子どもの大切な歯を守る習慣です。
だからこそ、嫌な思いだけが残る時間ではなく、少しずつ安心して取り組める時間にしていきたいですね。
「今日は昨日より少しできたね」
そんな小さな成長を喜びながら、親子で歯みがきの習慣を育てていきましょう。
・・・今日も一日ちはるびより
