「先生に、おはようって言おうね」
朝、保育園の玄関でお母さんが声をかけます。
先生も笑顔で、
「○○ちゃん、おはよう!」
ところが子どもは、何も言わずにお母さんの後ろへ隠れてしまいました。
「ほら、先生がおはようって言ってるよ」
もう一度声をかけても、下を向いたまま。
家ではあんなに元気におしゃべりしているのに、どうして保育園では挨拶できないのでしょう。
「挨拶くらい、ちゃんとできるようになってほしい」
「先生に、しつけができていないと思われないかしら」
そんなふうに気になってしまう保護者の方もいるでしょう。
でも、保育園で子どもたちを見ていると、朝の挨拶ができない理由は一つではないと感じます。
恥ずかしい子もいれば、まだ眠たい子もいます。
お母さんと離れることに気持ちが向いていて、挨拶どころではない子もいます。
また、言葉にしなくても、先生の顔を見たり、小さくうなずいたりして、自分なりに気持ちを伝えている子もいるのです。
朝の挨拶ができないからといって、しつけが悪いと考える必要はありません。
この記事では、1歳・2歳・3歳ごろの子どもが「おはよう」と言えない理由と、家庭でできる声かけ、保育士が大切にしている関わり方をお伝えします。

朝の挨拶ができないのは、しつけができていないから?
「挨拶は人との関わりの基本」
そう考えている保護者の方は多いと思います。
おはよう。
こんにちは。
ありがとう。
さようなら。
どれも、子どものころから身につけてほしい大切な言葉です。
でも、小さな子どもにとって挨拶は、大人が思うほど簡単なことではありません。
相手に気づくこと。
声をかけられたと分かること。
自分も返事をしようと思うこと。
そして、その気持ちを言葉にすること。
こうしたいくつものことが重なって、初めて「おはよう」という言葉になります。
大人にとっては何でもない一言でも、小さな子どもには難しい場合があるのです。
挨拶しないからといって、先生が嫌いなわけではありません
朝、先生に元気よく挨拶する子がいます。
一方、何も言わずに保育室へ入っていく子もいます。
でも、挨拶しなかった子が、先生のことを嫌いなわけではありません。
朝は黙っていたのに、しばらくすると先生のそばへ来て、
「先生、これ見て!」
とうれしそうに話しかける子もいます。
朝は緊張していても、いつもの遊びが始まると安心できるのかもしれません。
その一場面だけで、子どもの礼儀や人との関わり方を判断することはできないのです。
子どもが朝「おはよう」と言えない5つの理由
なぜ子どもは朝の挨拶ができないのでしょう。
子どもの様子を丁寧に見ていると、いろいろな気持ちが隠れていることがあります。
① 恥ずかしくて声が出ない
家では元気いっぱいなのに、保育園に着くと急に静かになる子がいます。
先生に声をかけられると、お母さんの足にくっついたり、顔を隠したり。
そんな姿を見ると、
「恥ずかしいのかな」
と感じることがあります。
特に、周りから注目されることが苦手な子や、慣れるまで時間が必要な子は、人前で声を出すことに緊張する場合があります。
大好きな先生であっても、毎朝すぐに挨拶できるとは限らないのです。
② まだ眠くて気持ちが切り替わっていない
朝は、大人も子どもも慌ただしい時間です。
起きて、着替えて、朝ごはんを食べて、保育園へ向かう。
子どもによっては、まだ眠気が残っていることもあります。
家を出るときは機嫌がよかったのに、園に着くころには少し疲れた表情になっていることも。
そんなときに、
「先生に元気よくおはよう!」
と言われても、すぐには応えられないかもしれません。
挨拶ができないことだけを見るのではなく、朝の体調や気分にも目を向けてあげたいですね。
③ お母さんやお父さんと離れたくない
保育園の玄関は、子どもにとってお別れの場所でもあります。
大好きなお母さんやお父さんと離れる瞬間です。
「ママ、行っちゃうの?」
「もう少し一緒にいたいな」
そんな気持ちでいっぱいのときは、挨拶よりもお別れのことが気になっているのかもしれません。
この場合は、挨拶を練習するより、まず安心して登園できるようにすることが大切でしょう。
④ みんなの前で話すことが苦手
保育園の玄関には、ほかの子どもや保護者がいることもあります。
先生と一対一ならお話しできるのに、周りに人がいると黙ってしまう子もいます。
「みんなが見ている」
そう感じるだけで緊張してしまうことがあるのです。
そんなときに、
「○○ちゃんはちゃんと挨拶できたよ」
とほかの子と比べると、かえってプレッシャーになる場合もあります。
⑤ まだ言葉で伝えることに慣れていない
1歳から2歳ごろは、言葉の発達に個人差が大きい時期です。
先生の「おはよう」が分かっていても、自分から言葉にすることが難しい子もいます。
先生が手を振ると、手を振り返す。
声をかけられると、にっこり笑う。
小さく頭を下げる。
それも、人との関わりを経験している姿です。
「おはよう」という言葉だけでなく、子どもがどんな方法で気持ちを伝えているのかも見てあげましょう。

保育士は朝の挨拶ができない子をどう見ている?
保育園の朝。
先生が笑顔で、
「○○ちゃん、おはよう!」
と声をかけます。
でも、子どもから返事がありません。
こんなとき、保育士は挨拶が返ってこないことだけを気にしているわけではありません。
今日は元気があるかな。
少し眠たそうかな。
お母さんと離れたくないのかな。
何か気になることがあるのかな。
子どもの表情や動きを見ながら、その日の気持ちを考えています。
無理に挨拶させるより、安心して登園できることを大切に
例えば、お母さんの後ろに隠れている子がいたとします。
そんなとき、
「ちゃんとおはようって言って!」
と繰り返すより、
「おはよう。今日も来てくれたね」
「○○ちゃんの好きな積み木があるよ」
と、普段の遊びへつなげる関わり方もあります。
最初は下を向いていた子が、好きなおもちゃを見つけると、少しずつ表情が明るくなることがあります。
その子が安心して保育室に入れたなら、それも朝の大切な一歩です。
小さな反応にも子どもの成長が見えます
先生の顔を見た。
小さくうなずいた。
少しだけ手を振った。
昨日はお母さんの後ろに隠れていたのに、今日は自分で玄関を入れた。
こうした変化も、保育士にとってはうれしい成長です。
言葉が出ることだけを目標にせず、その子が安心して人と関われるようになっていく姿を大切にしたいと思います。
家庭でできる、朝の挨拶を育てる5つの関わり方
では、家庭ではどんなことができるのでしょうか。
特別な練習をたくさんする必要はありません。
毎日の生活の中で、無理なく取り入れられることから始めてみましょう。
① まずは大人が笑顔で挨拶する
子どもは、大人のすることをよく見ています。
朝起きたら、
「おはよう!」
保育園に着いたら、
「先生、おはようございます」
近所の人に会ったら、
「こんにちは」
そんなふうに、大人が自然に挨拶する姿を見せてあげましょう。
子どもに何度も「言いなさい」と教えるより、大人が気持ちよく挨拶する姿から学ぶこともあります。
② 言えないときは保護者が代わりに挨拶する
先生に挨拶できないと、つい、
「ほら、おはようは?」
「先生が言ってくれているよ」
「もう一回言ってごらん」
と言いたくなるかもしれません。
でも、緊張している子に何度も言わせようとすると、挨拶そのものが嫌な時間になってしまうことがあります。
そんなときは、
「ママがおはようって言うね」
と、保護者が自然に挨拶してみましょう。
「先生、おはようございます。今日もよろしくお願いします」
子どもが横で聞いているだけでも、挨拶に触れる経験になります。
③ 手を振る、うなずくなどの挨拶も認める
「おはよう」と声に出せなくても、先生に手を振ることならできる子もいます。
小さく頭を下げたり、目を合わせたりする子もいるでしょう。
そんなときは、
「先生に手を振れたね」
「お顔を見られたね」
と、その子なりの関わり方を受け止めてあげましょう。
無理に大きな声を求める必要はありません。
ただし、手を振ることさえ難しい日もあります。
そんな日は、何も求めず、大人が穏やかに挨拶してあげればよいと思います。
④ ぬいぐるみを使って挨拶ごっこをする
子どもは、ごっこ遊びが大好きです。
お気に入りのくまやうさぎのぬいぐるみを並べて、
「くまちゃん、おはよう!」
「うさぎさんも、おはよう!」
と遊んでみましょう。
子どもが先生役になり、ぬいぐるみが保育園に登園してくる遊びも楽しいですね。
「先生、おはようございます!」
と大人がぬいぐるみの声をまねすると、子どもが笑いながら返事をしてくれることもあります。
大切なのは、挨拶の練習として繰り返させることではありません。
遊びの中で、挨拶をする楽しさを感じてもらうことです。
⑤ できたときは自然に喜ぶ
ある朝、いつも黙っていた子が、小さな声で、
「おはよう」
と言えたとします。
そんなときは、
「おはようって言えたね」
「先生もうれしそうだったね」
と、一緒に喜んであげましょう。
ただし、大げさに褒めすぎると、次の日も同じように言わなければいけないと負担に感じる子もいます。
次の日にまた言えなくても、がっかりした様子を見せる必要はありません。
「今日は言えた」「今日は言えなかった」という結果だけにこだわらず、挨拶を交わすことが心地よい経験になるといいですね。

1歳・2歳・3歳では朝の挨拶の姿も違います
子どもの成長とともに、人との関わり方も変わってきます。
ただし、言葉の発達や性格には個人差があります。
ここで紹介する姿は、あくまで一つの目安として考えてください。
1歳ごろ|言葉より表情やしぐさを大切に
1歳ごろは、周りの人から挨拶される経験を通して、人とのやり取りを少しずつ覚えていく時期です。
先生の顔を見る。
手を振る。
笑顔になる。
そんな姿が見られたら、その子なりの反応として受け止めてあげましょう。
「おはよう」がまだ言えなくても、大人が毎日優しく挨拶することに意味があります。
2歳ごろ|その日の気分によって違うことも
2歳ごろになると、言葉が増え、自分の気持ちもはっきりしてきます。
昨日は元気に挨拶したのに、今日は何も言わない。
そんなこともあるでしょう。
「イヤ!」という気持ちが強い日もあれば、自分から先生のところへ行く日もあります。
できたり、できなかったり。
それも成長の途中です。
3歳ごろ|分かっていても恥ずかしいことがある
3歳ごろになると、挨拶の意味を理解している子も増えてきます。
それでも、周りの人に見られると恥ずかしい。
先生に声をかけられると緊張する。
そんな気持ちになる子もいます。
「もう3歳なのに」と焦る必要はありません。
家では挨拶できるのか。
仲のよい友だちには話しかけられるのか。
どんな場面なら安心して言葉が出るのか。
その子の姿をよく見ながら、少しずつ経験を重ねていきたいですね。
朝の挨拶で避けたい声かけとは?
子どものためを思ってかけた言葉が、かえってプレッシャーになることもあります。
「どうして挨拶できないの?」
子ども自身も、なぜ声が出ないのか分からない場合があります。
そんなときに何度も理由を聞かれても、答えられないかもしれません。
「今日はちょっと恥ずかしかったのかな」
と受け止め、必要以上に問い詰めないようにしたいですね。
「○○ちゃんはちゃんとできるのに」
ほかの子と比べる言葉も、できれば避けたいものです。
挨拶が得意な子もいれば、慣れるまで時間が必要な子もいます。
人との関わり方は一人ひとり違います。
ほかの子と比べるより、その子自身の小さな成長に目を向けてあげましょう。
「挨拶しないと悪い子だよ」
挨拶は、人と気持ちよく関わるための大切な習慣です。
だからこそ、
「言わないと叱られる」
という経験より、
「挨拶すると気持ちがいい」
という経験を積み重ねていきたいものです。
挨拶の大切さは伝えながらも、子どもの人格を否定するような言葉は使わないようにしたいですね。
保護者が「挨拶できないと恥ずかしい」と感じたときは
先生に挨拶できないわが子を見ると、保護者の方が気まずく感じることもあるでしょう。
ほかの子が元気よく、
「おはようございます!」
と言っていると、なおさらかもしれません。
でも、そんなときこそ、まず保護者の方がいつも通り挨拶すれば十分です。
「先生、おはようございます」
子どもが黙っていても、必要以上に謝る必要はありません。
また、子どもの前で、
「この子、挨拶ができなくて困っているんです」
と繰り返し話すことも、できれば避けたいですね。
子どもは、大人が思う以上に周りの言葉を聞いています。
「自分は挨拶ができない子なんだ」
と思ってしまうこともあるかもしれません。
そんなときは、
「今日はちょっと恥ずかしかったね」
「また明日、先生に会えるね」
くらいの言葉で、穏やかに受け止めてあげたいと思います。
挨拶だけでなく、園で話すこと自体が難しい場合は?
ここまで、朝の挨拶ができない子どもの気持ちについてお伝えしてきました。
ただし、挨拶ができないだけでなく、園でほとんど話せない状態が続いている場合は、少し丁寧に様子を見ていくことも大切です。
例えば、家では元気におしゃべりしているのに、園では長い期間ほとんど声が出ない。
先生に助けを求めたいときにも、言葉で伝えることが難しい。
話す場面になると、強い緊張や苦痛が見られる。
このような場合は、単に「恥ずかしがり屋だから」と決めつけないことも大切です。
家庭ではどんな様子なのか。
園では誰と、どんな場面で話せるのか。
言葉以外の方法で気持ちを伝えられているのか。
まずは担任の先生と情報を共有してみましょう。
家庭では普通に話せても、特定の場所で強い不安から話せなくなる「場面緘黙(ばめんかんもく)」という状態もあります。
ただし、朝の挨拶ができないというだけで、場面緘黙と判断できるものではありません。
心配な状態が続く場合は、小児科や発達相談窓口などで相談するとよいでしょう。
大切なのは、無理に言葉を出させることではなく、その子が安心して気持ちを伝えられる方法を一緒に考えることです。
朝の挨拶は、安心できる関係の中で育っていきます
保育園の朝は、子どもにとって一日の始まりです。
元気いっぱいの日もあれば、少し眠たい日もあります。
お母さんと離れたくない日もあるでしょう。
そんな毎日の中で、先生は変わらず、
「おはよう!」
と声をかけます。
子どもが返事をしなくても、笑顔で迎えます。
その繰り返しの中で、
「先生はいつも自分を迎えてくれる」
「ここは安心できる場所なんだ」
と感じられるようになっていくことがあります。
そして、ある朝、ふと小さな声で、
「おはよう」
と聞こえてくる。
そんな瞬間は、保育士にとってもうれしいものです。
挨拶ができたことだけでなく、安心して先生に気持ちを向けられるようになったことにも、成長を感じます。
なお、挨拶だけでなく、朝の登園そのものを嫌がったり、お母さんと離れられなかったりする場合は、こちらの記事も参考にしてください。

まとめ|朝の「おはよう」は急がず、子どものペースで育てていこう
朝の挨拶ができないと、保護者としては気になるものです。
「ちゃんと挨拶できる子になってほしい」
そう願う気持ちは、自然なことだと思います。
でも、小さな子どもが挨拶をしない背景には、恥ずかしさや緊張、眠気、親と離れる不安など、さまざまな気持ちがあります。
大切なのは、無理に言わせることよりも、挨拶を気持ちのよい経験として積み重ねていくことです。
まずは大人が笑顔で挨拶する。
小さな反応を受け止める。
ほかの子と比べない。
できたときには自然に喜ぶ。
そんな毎日の関わりが、子どもの自信につながっていくことがあります。
今日、先生に「おはよう」が言えなかったとしても、それだけで心配する必要はありません。
先生の顔を見ることができた。
玄関まで自分で歩けた。
お母さんから離れて保育室へ入れた。
それも、その子にとって大切な一歩です。
子どもが安心して過ごせる毎日を大切にしながら、いつか自然に「おはよう」が出てくる日を、ゆっくり見守っていけたらいいですね。
・・・今日も一日ちはるびより
